第7話 修行の日々 その2

「ツチノコーー!!!ツチノコ!!ツチノコー!!!」


お互い別れて各自修行していたツチノコとスナネコ。その一晩後、スナネコになにか進捗があったらしくバイパスを駆け抜けツチノコの遺跡へ急いでいた。


「…そんな叫ばずとも聞こえてるよ。なんだよどうした」


暗闇の中からフードの目だけ不気味に光らせながら、ツチノコが現れた。


「あ、ツチノコ!修行の成果が早速出ました!」


「ほう。ならば見せてもらおうか」


ツチノコが腰を落として構えると、スナネコはおもむろに右掌を上に広げる。

そしてスナネコが集中するような素振りを見せると、その掌にサラサラとした砂漠の砂が

出現した。


「え?な、なんだそれ!?」


「分からないです。砂漠で修行してたらいつの間にか出来るようになってたんです」


言いながらもスナネコの掌にはまだ砂が生まれている。


「しかもこの砂、自由に動かせるんですよね」


スナネコが手を振ると、掌の砂が一つの塊になる。そして指をツチノコに向ける。と、その砂の塊はまるで弾丸のような速さで、ツチノコに迫る。ツチノコはそれを横っ飛びで回避する。続けて二発目、三発目も発射されるが、全て回避する。


「そしてこんなことも出来るんですよ」


ツチノコが次に見たのはスナネコの拳だった。それも砂をまとわりつかせた拳。

既に眼前に迫ったそれを回避する隙はない。ツチノコ咄嗟に両手をクロスさせ、衝撃を受け止めようとする。


ツチノコの腕にスナネコの拳が叩きつけられる。だが、スナネコの拳は豪快に砂をまき散らしながらツチノコを吹き飛ばした。


(…え?)


スナネコに吹き飛ばされたツチノコは、宙を舞いながら何が起こったのか分からないという様子で、地面に落ちる。


「今、一体何が…」


「ツチノコがボクに言ったことですね。これ」


スナネコが振り下ろした拳を1、2回握り直し、また拳に砂を纏わせる。


「こうすればボクの拳の威力が飛躍的に上がるんです。ボクのフェイントに反応できたとしても、かわさなければ意味無いですよ」


「そうかい…」


ツチノコはそういうとゆっくりと起き上がる。不気味な笑みを作りながら。


「面白くなってきたぜ。いいかスナネコ。こっからはオレも攻撃をする。オレの猛攻に耐えてみろ!」


ツチノコは目にも留まらぬ速さでスナネコに接近する。スナネコの懐に潜り込んだツチノコは、拳を振りかぶり強烈なボディブローをお見舞いする。が、また砂が爆発する。


砂で視界が遮られたツチノコは後にひとっ飛びし、5mほど距離を置く。


「なん…だ?」


「忘れちゃないですかね。ボクは砂を自在に操れるって」


砂煙の奥からそんな声が飛んでくる。


「自在に動かせるのは言うなれば、自在に動く手足が無限にあるということなのですよ。それは咄嗟に自分を守る砂の壁を作るのも容易なこと」


砂煙を割りながらスナネコが顔を出す。不敵な笑みを浮かべながら。


「さあ、どうしますか?ツチノコ!」


そこら中に舞う砂を竜巻のように自分の周りに渦巻かせながらゆっくりとスナネコが近寄ってくる。


「なんかお前、魔王みたいな風格だな…」


思わず半笑いになるツチノコ。


「お前の潜在能力がそんな力とはな…」


「えへへ、強いでしょボク」


そんな魔王スナネコは、そんな風格をさっと消し楽しそうに笑う。


「ボクの最強の力、とくと味あわせてあげますよ!」


スナネコは周りに浮いている砂を砂嵐の要領でツチノコへ向かって飛ばす。


「その中で、ボクが何処から攻撃するか分かりますかねえ!?」


砂嵐の中のツチノコへどう攻撃を叩き込もうか画策しつつ、砂嵐の中へ飛び込むスナネコ。だが、


「っ!!」


飛び込んだスナネコの位置が最初から分かっていた様に、ツチノコの拳がスナネコの額に命中する。


声も出せず、砂嵐からぶっ飛ばされるスナネコ。


「おいおい。お前こそ忘れてねえか?オレにはピット器官があることをな。盲ましなんぞ無意味だ」


先程のスナネコと同じような不敵な笑みを浮かべながら、砂嵐からツチノコが出てきた。


「…正直スッカリ忘れてました」


仰向けに倒れていたスナネコはムックリと起き上がる。しかしツチノコは安らぐスキを与えず攻め込む。


ツチノコが右足を振りかぶってるのを見たスナネコは、咄嗟に砂の壁を作る。


「…」


しかしツチノコは勝利を確信したように顔を歪ませる。ツチノコは振りかぶった脚を優しく砂の壁に打つ。


ツチノコの脚は、砂の壁を破壊せず砂の壁に下駄だけを埋まらせる。それを確認したツチノコは素早く脚を戻し、砂に埋まった下駄を残す。そしてその下駄を思いっきり蹴っ飛ばす。


砂の壁を破って飛んできたのはツチノコの拳でも脚でも無く下駄だった。想定外な出来事に反応が遅れたスナネコは、腹に下駄が深く突き刺さる。


その衝撃に思わず踞り、腹を抱えるスナネコだったがその隙をツチノコが見逃す訳もなく。


「まだまだだな。スナネコ」


砂の壁を突き破ったツチノコは下駄を超スピードで履き直した。その脚を大きく振り上げ、踞ったスナネコの背に思いっきり踵を叩きつけた。




「うー、悔しいです」


心底悔しそうな表情を浮かべてスナネコが吐き捨てる。


「いや正直オレも、お前が一晩でここまで力をつけるとは思わなかった。ホント強くなったな。オマエ」


ツチノコがそんなスナネコを慰めるように言う。


「というか自分でやっといてなんだが、背中は大丈夫か?」


「平気です。実はこの砂は回復効果もあるんですよ」


背中に載せた砂を指しながら言う。


「ってそれじゃ戦闘には使えねえじゃねえか」


「戦闘用には戦闘用。回復用には回復用の砂があるっぽいです」


「え、じゃあお前、砂による弾丸のような飛び道具に、砂を纏わせての物理威力上昇、砂嵐で視界奪い、更に回復も出来るってのか!?」


「…まあそうなりますね」


「……無敵じゃねえか」

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