第2話 切欠 その2
こはんの一軒家。
「ビーバー殿!今日もお疲れさまであります!」
穴掘りの技術者、プレーリーことオグロプレーリードッグが湖に浮かぶ影に呼びかける。
「あ、プレーリーさん」
そして応えるのは水生の指示者、ビーバーことアメリカビーバーだ。地の文ではアメビーとする。
「今日のダム整備も問題ない感じでありましたか?」
「そうっすね。穴も見つからなかったっす。もう日も暮れますし、早めに家に戻るっすよ」
アメビーが湖から上がり、プルプルと震え水を払う。
「そういえば見回りに来たキンシコウ殿が言ってましたが、今日はセルリアンがかなり多いらしいでありますよ」
「え?ホントっすか?うう、心配っすねえ」
と、二人で話をしつつ、アメビーが作ったドアからプレーリーが掘ったトンネルを進む。
そしてアメビーがハシゴを掴み、昇るため上を見上げると目が合った。
巨大で無機質な黒い目と。
「うわあああああ!!せ、セルリアンっすプレーリーさん!」
「んなっ!まずいであります!一旦逃げるでありますよ!!」
二人は大急ぎでトンネルを走り、ドアを蹴破り、外へ飛び出た。
「うわっ!!」
そこで待ってたのはまたも無機質な瞳。それも無数な。大量のセルリアンの群れが、二人を待ちかまえてた。
「ビーバー殿!!ど、どうするでありますか!?」
「ど、どうするなんて言われても・・・」
言いながらもセルリアンは近づいてくる。数が多いため、戦うなんていう選択肢はない。家にもセルリアンが待ち構えてる。しかしアメビーの頭は回り続ける。
そして簡単な、初歩的な手しか残されてないと知る。
「プレーリーさん!本気で、穴を掘って逃げてくださいっす!オレっちは水に入って逃げるっすから!」
「え、でも普通に掘っても生き埋めに…」
「落ちてきても埋まらないようなスピードでやるんすよ!頑張ってください!」
いうとアメビーは水の中に飛び込んだ。
「埋まらないような早さでの穴掘り・・・ビーバー殿の策は完璧なはずであります!わたしの本気を見せてやるであります!」
プレーリーは手を構え、一気に地中深く掘り進んだ。
「うおおおお!!これがわたしの底力であります!!」
プレーリーは目と手を輝かせながら超速で穴を掘り進める。後方からは土が落ちてくる気配を感じるが、そんなことを一切気にしない。
「セルリアンなんかには負けないであります!」
一方、アメビーの水中、
「セルリアンは水中には来ないと思ってたんすけど、それは黒いセルリアンだけだったんすね。ま、知ってたっすけど」
アメビーは水の中にも入り込んでくるセルリアンと水中戦を繰り広げてた。戦といっても逃げているだけだが。
「オレっちがここで大量のセルリアンを引きつけておけば、プレーリーさんは逃げやすくなるはずっす。でもオレっちがこんな手を取るとプレーリーさんは間違いなく反発するはずっす。だからこれが最善手のはずっす!」
アメビー製の広大なダムをあちらこちらと泳ぎ周り、華麗にセルリアンを避けてくアメビーだったが…。
「流石に、数には勝てないっす…」
アメビーの行先を囲むようにセルリアンが動き出し、あっという間に包囲されてしまう。
「でもこれで、プレーリーさんはなんとか逃げ切れたはずっす。でもここでお別れはチョット嫌っすね…」
水中であちらこちらに視線をやり、抜け道を探るビーバーだが、突破は難しそうに見える。
「ならば精一杯、暴れさせてもらうっすよ!」
アメビーの瞳が凛と輝いた。
「ぶわっはああ!!」
思いっきり掘り進めた勢いで急に地上へ顔を出したプレーリー。幸いここにはセルリアンは居ないようだ。
「湖畔からはだいぶ離れてしまったでありますな…。ビーバー殿は大丈夫でありますか…?」
考えるとだんだん心配になってきたプレーリーは一刻も早く湖畔に戻らないといけない予感を感じ始めた。
「急ぐであります!ってのわっ!」
「うおっと」
プレーリーが走り出したと同時にあるけものとぶつかってしまった。
「おいおい、そんな急いでどうしたんだよ」
プレーリーがぶつかった相手はセルリアンハンターのヒグマだった。
「ヒグマ殿!かたじけないであります!
が!今は一刻も早く来て欲しいであります!セルリアンの大軍が我々の家に!ビーバー殿が危ない予感がするのであります!」
「なに?」
ヒグマの目が本気になった。
「おい、今すぐ案内しろ」
「はい!こっちであります!」
「ここか」
湖畔の家に帰ってきたプレーリー。そしてヒグマ。しかしそこにはセルリアンの姿は欠片も見えず、屋内にもセルリアンの気配を感じない。ただただ不気味に、ダムの水面が波立っていた。
「ビーバー殿は水中で逃げるって言ってたでありますが」
「ばかアイツ!水が効くのは溶岩性セルリアンだけだ!」
ヒグマのその一言によってプレーリーの顔は絶望色に染まる。
「ヒグマ殿!ビーバー殿を助けてくれであります!!」
そしてヒグマにしがみつき、懇願する。
「分かってる。私に任せろ!」
言いながらヒグマは熊の手ハンマーを構え直し、ダムに飛び込んだ。少し遅れてプレーリーも続く。
「わたしだけここで見ている訳には行かないであります!」
「もう流石に限界っすね…」
水中で向かってくるセルリアンに抵抗してきたアメビーだったが、体力の限界が近づいてきた。それなのにセルリアンの数がまだまだ多い。
「もはやこれまで…っすね」
アメビーは水中で涙をするという器用な技を見せていた。
「プレーリーさん、一人でもなんとか頑張って生きていくんすよ!」
すべてを投げ出したアメビーだったが、
「プレーリーを一人にさせんじゃねえよ!」
という声にハッと驚き、声の方に目をやる。
「ひ、ヒグマさん!?なんで!?潜水出来たんすか?」
「できるかできないとか関係ねえよ!」
言いながらヒグマは器用に水中でハンマーを振り回し、バッタバッタとセルリアンを討伐していく。
「大丈夫でありますか!?ビーバー殿!」
「プレーリーさん!あなたも潜水は苦手なはずじゃ…」
「苦手だとしても少しは出来るでありますよ!それに!苦手だからって親友を見捨てる理由にはならないであります!さあ捕まるであります!」
と、プレーリーは精一杯を腕をアメビーに伸ばす。
「言っとくでありますが、後で説教でありますよ!こんな危険な手、なにが最善手でありますか!?」
「い、一応、オレっちがヘイトを集めてプレーリーさんを逃げやすくするって手だったんすけど…」
「自己犠牲なんて絶対に許さないであります!」
言いながら二人は地上へ上がる。
地上に上がるやいなや、アメビーは疲れ果てたようにその場で脱力した。
そしてヒグマも、二人が地上に上がったのを確認し、上がる。
そしてそこからはヒグマのセルリアン無双だ。
ハンマーを振り回し、ドタバタとセルリアンを退治するヒグマを見ながら二人は考える。
(オレっちもあれほど強ければ、プレーリーさんや皆さんを守れるんすけどね…)
(わたしがあれほど強ければ、ビーバー殿もほかの皆さんを守れるのでありますが…)
___オレっちも強くなりたいっす!
___わたしも強くなりたいであります!
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