第一章 加藤心愛 7

 真美子が帰ってきたのは日付が変わって更に一時間半経った頃で、スヤスヤとベッドで寝ていた俺は真美子がゴミ箱に躓いて盛大に転ぶ音で目を覚ます。なんだよこの不良中年午前様かよとか思うのだが、正直≪鍋島浩之≫も≪昔≫はよくやっていた。それでも、中学生のこの体には割ときつくて文句の一つも言ってやろうと想ったのだが、真美子が買ってきた寿司が旨かったので全てを許した。そして、酒臭い煙草臭い真美子がシャワーを浴びている間にもう一寝入りしてやろうとするのだが、目敏い真美子に阻止される。

「テル、あんた今日女の子つれこんだでしょ」

「は? 何言ってんの?」

「すっとぼけんじゃないわよ。洗面所にヘアピン置いてあったわよ」

 ポン、とリビングのテーブルに投げ出されたのは、ピンクの花と蝶々があしらわれた煌びやかなヘアピンで、その瞬間俺の心臓は確実に止まる。

 彼女なの? 彼女じゃないよ。クラスメイト。ふーん。クラスメイトの女の子のヘアピンがなんでうちの洗面所にあるわけ。その子傘忘れちゃったみたいで、濡れてたからさ。シャワー貸してあげたんだ。は? クラスの子にシャワー貸してあげたの? ライトもいたよ。あー、そう。ライトくんもいたの。 

 シャワー上がり髪も禄に乾かすことなく俺に詰め寄る真美子はとんでもなくしつこいしうるさい。つうか、ズボン穿けよ。いつまでパンツ一丁でいるんだよ三十三歳だろ。

 パンツ一丁の真美子はポタポタと水滴を垂らしながら疑り深い目でじっと俺のことを睨んでいたが、飽きたのか面倒くさくなったのか、ぱっ、と両手の平を上に向けた。

「まぁいいや。このヘアピン、その子に返しておきなさい」

「わかった。おやすみなさい」

 ヘアピンを持ってそそくさと部屋に戻ろうとする俺。扉を閉める直前で、一人で呑み直そうとビールを開けていた真美子が言った。

「あんた、避妊はちゃんとしなさいよ」

 うるさい。

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