22・殺すほど憎んでいた
心から憎んでいる人を殺す権利と、相手に苦痛を殆ど与えず殺す毒薬を手に入れる事が出来た。
誰を、殺しても構わないのだ。
その上、法には決して触れない。
私は上機嫌だった。
さて、誰を殺そうか。
嫌な上司。
殺すほど憎んでない。
意地悪な同僚。
殺すほど憎んでない。
私の悪口を言いふらす隣の奥さん。
殺すほど憎んでいない。
役立たずと罵る妻。
殺すほど憎んでいない。
挨拶さえしてくれない息子。
殺すほど憎んでいない。
ボケが始まり泣き喚くようになった母。
殺すほど憎んでいない。
いまだ、会えば私を嘲る幼馴染のいじめっ子。
殺すほど憎んでいない。
エトセトラ、エトセトラ。
でも、そのすべて、殺すほど憎んでいない。
私は毒薬の前、座り込み、じっと考えていた。
私は、誰も殺すほど憎んでいないのか?
それとも、私に決断力が無いのだろうか?
きっとそうだ。
そうに違いない。
嗚呼。私はなんて情けない奴だ。
ふと、思い付いた。
私は、
上司に蔑まれ、同僚に笑われ、近所の人に馬鹿にされ、妻に疎まれ、息子に呆れられ、母に見捨てられ、幼馴染に玩具にされた。
なんて、情けない奴だ。
こんな奴、生きている資格など無いのでは、と、私は、思ったのだ。
そこで、私は迷わず、毒を一息に飲み干した。
死だけは、優しかった。
何も言わず、私を抱き締めてくれたのだから。
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