第5話

 男子が近づいてきた。すぐに、机の脚をけった。高山たかやま はじめだ。僕をいじめてくる男子の筆頭。体も態度も大きい。

「寝たふり、してんじゃねぇよ。」また、一発、蹴られた。机が動く。紫さんが心配そうに見ているが、そんなのお構いなしに、高山が始める。

「お兄ちゃんと一緒に登校してたな。子どもっぽすぎるだろ。中三だぞ。なあ。」

「ああ、子どもっぽい。」がやがやと高山の仲間が何か言いながら、こちらに向かってくる。いつものように殴られた。こんな日に限って先生は来ない。来てもおかしくないはずなのに。なぜだろう。クラスのみんなも誰も動けない。これはいつも通りだ。自分が巻き込まれるのが嫌なのだろう。当然かもしれない。僕も傍観者でいられるなら傍観者のままでいる。そんなことを考えているうちに、暴力によるいじめは止んだ。多分男子たちが一通り僕を攻撃したのだろう。物理的に痛い。

「なんでお兄ちゃんと来たんだ。」

「ちょっと、一人で行くのが心細いって言ったら、ついて来てくれた。」

「ふーん。いい、おにいちゃんだな。」

「うん。」つい正直に答えてしまった。

「でも、そのせいで弟が蹴られたり、殴られたり、すんのになぁ。まあ、弟バカってやつだな。馬鹿だなぁ。」

「うんうん。」また、周りの男子たちが囃し立てる。

「そんなことないよ。お兄ちゃんはいいお兄ちゃんだ。馬鹿じゃない。」高山をにらみ、大きな声で、つい、反論してしまった。自分でも驚いた。高山たちはもっと驚いたようだが、クラスのトップに立つ高山自身はひるまない。

「面白いこと言うね。さあ、第二弾だ。一番派手にこいつをやったやつが、俺の右腕だ。」その言葉を聞いた途端、今まではヤジを飛ばして、一発蹴ったぐらいの連中が、襲い掛かってきた。なぜかうわさを聞き付けたほかのクラスのやつまでが僕を攻撃してくる。痛みが僕を侵食する。死んだ。直感的にそう感じた。

 いつの間にか、自分の視点が、宙を舞っている。

 病院。「ご臨終です。」

 ベットに横になっている、自分を見るのは変な気分だ。

「蓮が、まさか学校でいじめられて、病院に搬送されて、すぐ死ぬなんて。」兄の声。やはり僕は死んだんだ。お母さんとお父さんは泣いている。お父さんは会社を早退したのだろうか。のんきにそんなことを考える自分がいる。

 お葬式。人が多い。

「蓮くん、お兄ちゃんはいいやつだ、馬鹿じゃないって言ったら、より激しくやられたんでしょ。なんていうかね。すごい子よね。」

「そうよね。今までもいじめはあったけど耐えて来たらしいの。でも、お兄ちゃんのことで初めて反論して抵抗したんだったね。そしたら、相手が気分を悪くしたってことらしいね。」

「そういうことだったの。お兄ちゃん思いね。」誰かの親であろう。おばさんと呼んだら怒られそうな女性三人がしゃべっている。

 週刊誌。「お兄ちゃんはバカじゃない!反論した少年悲劇の死」「兄を馬鹿にされ激怒。無念の死」見出しの文字が躍っている。

 新聞。「中三少年クラスで暴行受け死亡」「口論になり、大勢から暴力」事実を的確に伝えている。

 テレビでは、色々なコメンテーターが、意見を交わしている。

「お兄ちゃんをかばって、激しくやられて死ぬっていうのはねぇ。ある意味、ドラマみたいだよね。悲劇の英雄みたいな。」おじいさんタレントが話す。

「たしかに、、、」アナウンサーが受ける。話はまだまだ続くようだ。

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