幕間劇終・シルスティン最後の夜より七日


【12・シルスティン最後の夜より七日】




 この人たちは、わたしをこわすつもりなのだろう。



 イルノリアはそう判断する。

 身体が重い。

 痛いのは平気。癒してしまえばいいだけ。

 でも、この重いのだけは、とても辛い。


 結界と呼ばれるもの。

 普通の結界なら平気。銀竜は魔物じゃないから封じられない。

 だけど、血を用いた結界だけは別。しかもそれが魔物の血を用いたものなら、更に別。

 魔物の肉に竜は封じられ、紅い血に魂が封じられる。


 それが重さの原因。

 とても、辛い。


 でも、それ以上に辛いのは、この結界が外から内へ、内から外への情報を塞いでしまう事。



 探せない。


 シズハを、探せない。


 シズハの気配が少しも感じられない。

 生きているのか、死んでいるのかも分からない。


 

 わたしはここ。

 シズハ、会いたい。

 シズハ、たすけて。

 わたしはここ。

 たすけて、シズハ。

 

 ここに来て。

 名前を呼んで。

 そばにいて。

 シズハ。



 必死の声は届かない。

 

 


 人間たちは沢山来るけど、誰もイルノリアの声を聞かない。人間にも分かるような音を出しているのに、皆が無視をする。

 

 彼らが与えるものは単純。


 痛みと痛みと痛みと痛み。

 その繰り返し。


 

 わたしを、こわすつもりなんだ。



 でも、負けない。

 此処で死んだらもうシズハに会えない。

 もう、傍にいられない。


 傍にいたい。

 傍にいて。

 それが望みなのに。

 他の誰にも迷惑を掛けない。

 ふたりだけ、あればいい。

 それが望み。それだけが望み。


 どうして、その望みさえも、叶えられないのだろう。


 

 だけど――あきらめない。


 

 あきらめたらそこで終わり。

 絶望がやってくる。

 絶望は魂を死に至らせる。

 それだけはだめ。

 それだけは……だめ。


 

 身体を丸める。

 小さく、小さく。

 シズハの事だけを考える。


 シズハ。

 会いたい。

 はやく、会いたい。

 傍にいたい。

 


 誰かが近付く気配。

 イルノリアは顔を上げる。



 黒い瞳はいまだ強い。

 彼女は決して諦めない。狂気とも言える強さで、己の求める結末へと至るまで、諦めない。


 

 彼女を見る誰かが笑った。



 その笑みが遠い誰かを一瞬思い出すものの、今のイルノリアにはどうでもいい。



 シズハ。



 もう一度、愛しい人の名を、呼んだ。





 そして――物語の幕が開く。


        intermedi all closed……

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竜と猫 やんばるくいな日向 @yanba

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