幕間劇3・シルスティン最後の夜、翌日


【4・シルスティン最後の夜、翌日】


 

 空が暗い。


 キリコは見上げた空に太陽を見つけられなかった。重い雲が空を覆っている。


 ただ風が吹いている。

 湿った風だ。

 

 乱れた黒髪を手で押さえ、空に向けていた視線を前に戻す。

 屋敷。

 昔は家族三人で住んでいた家。そして、今たった一人で住んでいる家。


 彼女が守るべきもの。


 一人で住むには広い家だ。

 暗い空の下に見れば、それは更に強いものに感じられた。


 ただ、ひとり。


「――……」


 片腕に抱いた花を見る。先ほど摘んだばかりの紅。

 

 その色と暗い空。重い風。

 

 ……争いが来る。


 唐突に考えた。

 理由もなにもなく、突然、そう思考する。


 同時に妙な不安。

 家を見る。


 この家に家族三人で過ごせる日は二度と来ないような気がした。


 まさか、と、キリコはすぐさまその不安を否定する。

 笑みさえ浮かべ否定する。


 不安は微塵も消えなかったが。

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