幕間劇4・シルスティン最後の夜、翌日



【5・シルスティン最後の夜、翌日】



 某所。

 薄暗いその場所が何処であるかも分からない。

 ただ気配がふたつ。


「――“神官”の処理は完了しました」


 声にもうひとつの気配が応じる。

 ゆっくりと頷いたようだ。

 微かな、笑いの息。


「記録の水晶にシルスティンで起きた事柄、ほぼすべてが記憶されています」


 何か、声。


「ご安心下さい。こちらの姿は撮られておりません。――ただ、彼らのみ。えぇ、既に人の騎士団が回収しております」


 笑う声。


「えぇ――彼らは知るでしょう。新たな冥王の存在を。何、彼がどういう事情であれ、構わないのです」


 声。


「はい。――彼らは追い詰められるでしょう。逃げ場所は何処にも無い程。ですが、それがお望みかと……」


 笑う、声。


「指示は完了しました。次は……何を?」


 声。


「……待機、ですか? しかしまだ――」


 微かな声。

 強い、調子。


「し、失礼を……! ですが、その……どうなさるおつもりでしょうか……?」


 答え、らしき言葉。


「……竜……?」


 後は笑い。

 それから、羽音。

 竜の羽音ではなく、羽毛に覆われた鳥の羽音だ。


 一瞬、暗闇の中にその姿が浮かび上がる。


 猛禽類。おそらく鷹だ。

 これが、魔術師が話していた相手だろう。

 ただの鳥ではない。光が宿る両翼。魔術の光だ。

 誰かの、使い魔。

 

 鳥の姿が消え去る。


 魔術師は軽く息を吐いた。

 手首の魔術飾りを弄る。


 変わらず室内は闇に満ちている。

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