第12話2章・ゴルティアにて。


【2】






 ゼチーアは机の向こう、満面の笑みのシヴァを見上げた。

 何を言っているのかと尋ねる視線。我ながら睨み付ける様なものになったと思うのだが、それに動じるシヴァではない。こいつだったらメデューサに睨みつけられても平然と笑ってそうな気がする。


「……何だと?」


 言葉に出して尋ねる。

 返ってきたのはシヴァの笑顔。


「今晩、お食事でもご一緒にどうですか……って言ったんですけど。ハーヴェスなんですけども、今日なんですよね。突然ですけど」

「……」


 ゴルティアでも1、2を争う高級レストランの名前を出されて怪訝な表情が更に強くなる。


「あ、勿論僕の奢りです」


 と言うか、とシヴァは苦笑するように笑った。


「兄が店から招待券を貰ったらしいんですが、兄も義姉も今朝から出かけていて。『今日までだから食事に行って来て』と言われても、ねぇ、困るでしょう」


 その辺りの大衆食堂ならまだしも高級レストランなど、よほど覚悟しないと行けない。金銭的には問題無いとしても、どうもそういう場所は落ち着かない。

 庶民の生まれと言うのは死ぬまで庶民だ。


 ゼチーアは軽く身体を背もたれに預ける。

 眼を細め、シヴァを見た。


「確かにいきなり今日食事に行けと言われても困るな」


 嫌味を交えた口調にシヴァが苦笑。

 両手を合わせる。


「そんな酷い事を言わないで、付き合ってやって下さいよ」

「誰か女を誘え。お前だったら相手には困らないだろう」

「うーん……予約が夜なもので、親御さんの許可がないと連れ出せない子ばかりなんですよねぇ。許可ってなると面倒で……。それに、子供用のメニューじゃないと思うんで」

「すまん、私が悪かった」


 女とは言ったが幼女とは言ってない。


「ねぇゼチーアさん、お願いしますよ。兄も取引先との付き合いがあるんで、誰も行かないって訳にはちょっと、なんですよ」

「……」

「兄がよく接待に使う店なんです。付き合いが悪くなっちゃうと困るんで、僕と兄を助けると思って」



 お願いします、と本当に申し訳無さそうな顔で言われると、ゼチーアは頷くしかなかった。



「……分かった」

「有難うございます! じゃあ夜7時に。店で待ち合わせしましょう。僕の名前を出せば通りますので。――それと先に招待券渡しておきますね、はい!」

「どんな服を着ていけばいいんだ?」

「まぁそれなりで」

「…………」

「騎士団の制服でも正装で通りますよ?」

「……それにする」


 まだ分かり易い服装を出されて小さく息を吐いた。

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