第11話2章・ゴルティアにて、少し過去
【3】
ゴルティア市内に存在する広場。
時々大きなイベントが行われ、イベントが無い日も露天が出たり、大道芸人が芸を見せたりと賑やかな場所だ。
その広場の噴水近く。
一際目立つものが登場していた。
楽器を演奏して小銭を稼ぐ芸人が、自分の定位置の場所に居るそれを見てぎょっとした。
回れ右して去っていく様を、遠巻きに見つめる人々は気付かない。
遠巻きの人の流れ。
その中央は、噴水の縁に顎を乗せた風竜だ。
風竜は自分の身体に板を立てかけてある。板には汚い文字が並んでいた。
文字の内容はこうだ。
『だれかひろってください』
しかし誰も近寄れない。
ゴルティアの人間は飛竜に慣れていない。
ウィンダムのように、身近に人懐こい飛竜が居ないのだ。触る所か遠巻きに見るだけだ。
それを風竜は不思議そうに見ている。
風竜は勿論ココ。
現在家出中。かつ、新しい宿を募集中。
そして、宿探しは激しく難航している。
何となくココもそれを悟る。
まぁのんびりやろう。
数日ぐらいこの場所に居ても良い。
人間観察は結構面白い。
口をぽかんと開けてこちらを見ている子供を見ながら、そんな事を考えた。
一方、シヴァ。
ミーシャが読んでと強請ったのは、絵が少ない昔話集だった。読んでいくうちに懐かしい気持ちになってくる。
ミーシャの部屋は少女らしいもので沢山だ。ソファに座ったシヴァの横に、ミーシャも座る。腕にはふわふわのうさぎのぬいぐるみを抱き締めていた。
「――おや」
その声に顔を上げる。
ミーシャがすぐさま立ち上がった。
「お父様!」
あまり似ていないと言われる兄が、驚いた顔でシヴァを見る。
すぐにその顔は笑み。
抱きついたミーシャの頭を軽く撫でた。
「娘の我侭に付き合わせたかな」
「いえいえ」
シヴァは本に栞を挟み閉じた。
「可愛い姪っ子と一緒に居れて嬉しいですよ」
「そう言って貰えると助かる」
ターヴァは娘の顔を見て笑う。
ところで、彼はシヴァに視線を戻した。
「ココは何処へ行った?」
「ココ? 竜舎に居ません?」
「それが――」
ターヴァは言いよどむ。
シヴァは頭を掻いた。
「あれ、また拗ねて庭でふてくされてますか。スイマセン、すぐに連れ戻します」
以前ココは拗ねに拗ねて、庭の木の葉っぱを全部風で落すと言う事をやってのけた。
今度は庭の花でも全部食い千切ったのかと考える。
「いや、違う」
兄からの答えは違った。
「扉が壊されて、ココの姿が見えない」
「……」
いつもと違う様子にシヴァは僅かに眉を潜める。
「だから何かあったのかと思って家族の様子を確認して歩いていたのだが……何があったんだろう?」
「確認して来ます」
「あぁ、頼むよ」
兄の言葉に頷き、シヴァはすぐさま動き出した。
シヴァの姿が消えてすぐ、父に抱きついたまま、ミーシャが頬を膨らませた。
不機嫌そうな娘の顔を見て、ターヴァは膨れた頬を指でつつく。
「どうしたんだい、可愛いミーシャ」
「おじさまはミーシャが一番じゃないの」
「……?」
「ミーシャが小さいから先にしてるだけ。それだけなのに」
唇を尖らせる。
「男の子ってそれがわからないのね。――だからミーシャは男の子がきらい。バカなんだもの」
「……お父様はよく分からないが」
娘の頭を撫でた。
「人を馬鹿と言ってはいけないよ」
「人じゃないもの!」
ミーシャは父の服に顔を埋めたまま、そう返した。
竜舎の前。
確かにココの姿は見えない。
周囲を探ってみるが飛竜の気配も感じなかった。
竜舎の扉が壊されている。
……と言うか、竜舎の扉が無い。両開きの扉。その片方が存在しない。
「………?」
誰かがココを連れ去ったとしても、何故扉まで?
周囲を見回して次に気付いたのは、扉近くに転がる塗料の入れ物。
筆も落ちている。
拾い上げた筆の持ち手。
くっきりと牙の痕が見えた。
飛竜がこれを噛んだのだ。
「………」
シヴァは空を見上げた。
それからゆっくりと背後を見る。
街の中心部。
「もしか……して」
まさかなぁ、と思いつつも、多分そうなのだろう、と思う。
外されて持ち去られた扉、倒れた塗料の入れ物、竜の噛み痕が残った筆。
それから、消えたココ。
「……すぐに見つかりそうですね」
シヴァの勘は大正解だった。
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