第10話14章・現在、死竜編。



【14】






 緑の光を纏った矢が走る。


 死竜の目にも見えただろう。

 人の姿をしたものが放った、小さな武器。


 恐れる事も無いその武器。



 避けようともしなかったその緑の矢は。



 死竜の骨を通り、抜け、走り。


 その背に跨る人物へと突き刺さる。




 揺れた。




 ゆらり、と、その身体が揺れる。

 ローブが外れる。



 痩せこけた顔が現れた。

 微かに開いた口元には牙が覗く。


 乾いた肌。

 茶色に乾いた肌。


 そして、何も映さぬ、瞳。



 死竜の背に跨って――いや、結び付けられていたのは、一体の屍体である。



 屍体が揺れる。


 死竜が慌てたように身を捻る。



 それが最後のきっかけ。

 大きく揺れた屍体が、背から滑り落ちる。



 死竜が吼えた。

 大きく、絶叫するように、吼えた。



 落ちる屍体の速度に合わせて、そのまま翼を緩める。

 落下。


 しかし屍体に追い付けない。



 地上が近い。



 死竜も分かっていた筈だ。

 地上が近いと。

 このままでは激突すると。


 屍体が地上に落ちる。

 衝突の衝撃で身体が弾けるように壊れた。それほどまでに脆くなった屍体。


 死竜がもう一度吼えた。

 誰かの名を呼ぶように、一度。



 そして、死竜自身の身体も、地面に叩き付けられた。


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