第7話11章・ウィンダムにて。過去。



【11】





 時は流れる。

 三年の月日が流れて――ゴルティアにて。



 ゴルティア竜騎士団執務室。

 いつもと同じように難しい顔をしたゼチーアが、手元の書類を見ている。


「――ゼチーアさーん、シヴァただいま参上しました」


 ドアを軽いノックと同時に開くと、ドアの所で敬礼。


「あぁ、入れ」

「失礼します」


 目の前に立つシヴァに、ゼチーアはその手紙を渡した。


「何ですか、これ?」

「……ゴルティア国立大学からの正式な依頼状だ」

「………うわ、凄い嫌な予感」


 シヴァは文面に目を通す。

 飛竜の研究の為、竜騎士の協力を仰ぎたいと言う文面。

 シヴァとココが名指しされ、最後には見覚えのある教授の直筆署名。


「うわぁ、本当にこっちに来たんですねぇ」

「知り合いか?」

「ウィンダムに居た頃にお世話になっていた教授です」

「そう言えば向こうの国立大学の生徒だったな」

「はい」


 ゼチーアの前に手紙を置く。


「すいません、断って貰えませんか?」

「お前なら身体も空いているだろう?」

「でも、もう、古竜学には興味が無くて」


 ココを思いだし、笑う。


「こんな面白い事をやっているのに、他の事になんて構っていられません」


 ようやく心から夢中になれる事。

 己の片割れ。

 失われた部分を埋めてくれる、唯一の存在。


「面白い、か」


 ゼチーアの瞳が細い。


「竜騎士団の仕事を面白いとは、まぁ、大した意見だな」

「あ、あぁ! 勿論ふざけている訳じゃないですよ! 僕は常に本気で全力で――」

「分かってる」


 大学からの手紙を横に動かし、別の手紙。


「シルスティンの調査は出来るか?」

「……へぇ。珍しいですね」

「少々きな臭い噂が流れている。調べてくれ。詳しい事はその手紙を読め。読んだ後は処分して構わん」

「危険ならばどれぐらいまで?」

「死ぬな。それ以上は言わん」

「分かりました。ココと動きます」


 ゼチーアの手から手紙を受け取る。


 一歩下がって敬礼。


 そのシヴァが、ふと、動きを止めた。


「ゼチーアさんって、ココの事、聞かないですよね?」

「ウィンダムで拾ったのだろう?」

「信じてるんですか?」

「まさか」


 だが。


「必要があればお前が話すだろう」

「……はい」


 笑う。


「では、シヴァ、動きます!」

「頼むぞ」


 部屋を出る。


 ココは竜舎の前に繋いである。

 そこまではすぐ。

 外は青空。気持ちが良い空だ。


 ココと動くのは、良い気持ちだろう。



「さて――頑張りますか」



 満足そうに、シヴァは小さく呟いた。



                 終

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