第7話10章・ウィンダムにて。過去。
【10】
「――ゴルティア貴族の一員とはな」
「止めて下さいよー、そんな肩書き恥ずかしくて」
ウィンダムの宿屋。
表通りに面したそこは、此処数日のシヴァの住処である。そう――大学付属の寮を引き払ってきてから、ずっと。
ライデンは窓から外を見つつ、シヴァに話しかける。
「これからどうするんだ?」
「ゴルティアに帰ろうと思います」
「まだ戦争中だろう」
「あそこの竜騎士団、冥王戦で壊滅状態で、人員募集中なんですよね。コネを使って紛れ込みます」
「……すまん」
「な、何でライデンさんが謝るんですか」
「……」
本来ならば、風竜乗りを自由騎士団が勧誘する事が多い。
しかし、ライデンの上司たちはシヴァとその風竜を自由騎士団に入れる事を拒否した。
犯罪行為を行った飛竜を、騎士団に入れる訳にいかない。それが上司たちの出した結論だ。
「丁度いいんですよ。そろそろウィンダムにも飽きて来ましたし。故郷に帰るのも悪くないです」
「……」
「それに、自由騎士団は給料安いですからー」
「言うな。事実だがな」
「でしょう?」
シヴァは明るく笑う。
その笑みを少しだけ弱めて。
「それに……あの子の為にも、今回の事があまり知れてない場所に行きたいんです」
「……そうか」
あの風竜が盗賊を乗せて犯罪行為を行っていた事。
幾ら隠しても知れ渡る。
ウィンダムが幾ら自由の街とは言え、住み難いのは事実だ。
「まぁ僕が黙っていれば、ゴルティアではそんなに知れ渡らないでしょう。他の人にあの子との出会いを聞かれたら、拾ったって言いますよ」
「……誰も信じないと思うぞ、それは」
ライデンは窓の外を見る。
外には風竜が伸びている。
あの、風竜だ。
「名前は決めたのか?」
「はい! ココにしました。可愛いでしょうー?」
「…………あの風竜、オスだぞ?」
「え?!」
「…………」
ライデンはシヴァを見た。
シヴァはしばし空中を見上げ――言った。
「あの子も気に入ってるみたいだし、いいかなぁ、と」
「……まぁ、本人が気に入っているなら、問題は無いな」
シヴァが立ち上がる。
手には荷物。
「ライデンさん、色々と有難うございました」
「私は何もしていない」
「いえ。最後の登場シーン、カッコ良かったですよ。それにシグマも見れましたし」
「また、見に来い」
「そうですね……戦争が終わったら、来ます」
「待っている」
「所で――どうやって帰るんだ?」
「ココの傷も癒えたんで、ゆっくり飛んで帰ります」
「無理はするな」
「大丈夫ですよ。手綱も、鞍も新調したんです。可愛いんですよ、ほら、リボン付けて――」
「だから、あの子はオスだと」
「………うーん、本人は気に入ってるみたいで」
「……………」
まぁいいか。
あ、と、扉から出ようとしたシヴァを呼び止める。
「あの大学の教授はいいのか?」
「竜騎士になった弟子は僕だけだと大感動中です。それですっかり盛り上がっちゃって、ゴルティアに来るって騒いでるんですよねぇ」
「こっちの大学を捨ててか? 設備ならウィンダムが一番だろう」
「研究ならば何処でも出来る、と吼えてます」
「……」
「戦争終わったらにして下さい、と言ったんですが。本気で来そうです」
暫く先の事だろうが。
所で、と、シヴァが切り出した。
「ライデンさん、ひとつ、お願いがあるんです」
「何だ?」
「ココの事……それから、僕の事。出来うる限り、人には話さないで欲しいんです」
「……」
「今回の件で調査しないとならない事も多いと思いますが、出来る限りでも。……お願いします」
「分かった。私の出来る範囲で約束しよう」
「有難うございます」
「それじゃあ、ライデンさん」
「ああ、気を付けて」
「はい!」
シヴァはふざけたような敬礼をして、笑った。
ライデンは真面目に敬礼を返す。
「旅の無事を祈る」
「有難うございます」
シヴァはもうひとつ笑って、くるりと背を向けた。
駆け出す音。
ライデンは窓から外を見る。
風竜――いや、ココが顔を上げた。
嬉しそうに、二対四枚の翼を動かす。
そのココに、シヴァが駆け寄った。
ライデンの口元に意識せぬ笑みが浮かぶ。
良い飛竜と竜騎士だ。
彼らの行く末に幸せがあるように。
ライデンは静かに祈った。
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