第7話 ウィンダムにて、過去

第7話1章・ウィンダムにて。過去。


【1】


 大陸の西方に位置する巨大な草原。

 そのほぼ中央に位置するのは、『自由都市』ウィンダムである。


 500年の前。

 大陸統一を成し遂げた、狂王ボルドスが倒れた後、大陸はその後釜を狙う者たちにより争いの日々が続いた。

 その長い争いを終止符を打つ為に、各国の代表者たちがひとつに集まり、各国の領土を定め、休戦同盟を結んだ。


 その休戦同盟が結ばれた土地を非戦闘区域と定め、今後、どんな事があろうともその場では争いを起こさぬと誓ったのだ。


 後日、その場所にひとつの街が作られる。


 自由都市、ウィンダム。


 王を持たぬ国。

 求める者ならば誰でも受け入れる国。



 では、そのウィンダムに向かって歩を進めよう。



 草原の中には広い道が存在する。

 もう少し街へと近付けば石畳で舗装されたものになるが、この辺りではまだまだ。

 それでも綺麗に均された道だ。


 ウィンダムへと向かう人々の姿が始終存在する。徒歩で向かうもの、馬で向かうもの、馬車で向かうもの。

 空を見上げれば、竜で向かう者すら居る。


 竜と言えば、草原、その奥に眼を凝らせば、空中に風と遊ぶように舞う姿を目撃するだろう。


 野生の風竜だ。


 好奇心旺盛の彼らが好むような、例えばきらきら光る石――安物で十分だったりする――や、音の出る玩具があるのならば、少し目的をずらし、彼らに会うのもいい。

 興味があるのならば貴方の元まで降りてきてくれるだろう。


 行ってみようか?

 何、危険は無い。

 野生の風竜は、人懐こい犬のようなものだ。


 風竜はウィンダムの紋章にも刻まれる、四枚の翼を持つ飛竜。自由の象徴だ。

 自由で気まぐれな彼ららしい遊びを、ちょっとした玩具と交換に、貴方ともしてくれるかもしれない。

 それも楽しいものだ。


 ほら、やってきた。

 どうやら貴方が手に持っている、その笛が気に入ったらしい。

 吹いてやるといい。喜ぶ。


 彼らに気に入られたのなら、別れ際に、風竜は己の鱗を落としていく事がある。

 それは有り難く頂戴して行くと良い。

 風の魔力を込めたものであるのは有名だが、ウィンダムにはちょっとした伝説がある。


 風竜の鱗を持っていると、必ず、このウィンダムへと戻ってこれる、と。

 恐らく、貴方はこの街を気に入るだろう。

 ならば持っていても間違いは無い。


 そして、本当に風竜に気に入られる――いや、その風竜が貴方の運命ならば……。


 いや、止めて置こう。


 万が一にもそんな可能性は無いのだろうし。


 ただ、その万が一が起きた場合は、まずは貴方の片割れを抱き締めてあげるといい。

 彼――もしくは彼女は――貴方の訪れを、下手をすると何百年も待っていたのかもしれない。



 そろそろ風竜に別れを告げよう。


 貴方を気に入っているのならば、ほら、上空、追いかけてくる。

 何、放っておいても街に入る前に帰ってゆく。


 足元が石畳になっているのに気付いただろうか。

 所々に緑の石が嵌められたウィンダムへの道。

 あとは真っ直ぐだ。

 この道は北門へと通じる。


 ウィンダムの四方は馬車がそのまま入れるほどの巨大な門が存在する。

 そして、基本的には門番は居ない。

 真夜中でも門は開かれている。


 危険は無いか、と?


 ウィンダムには街を守る誓いと騎士団がある。

 ウィンダムの自由騎士団。大陸で唯一、竜騎士と人の騎士が同じ騎士団に属している。

 彼らが街を守っている。

 私もそこの騎士だ。

 その私が言うのだから、間違いあるまい。


 それと、誓い。


 ウィンダムが争いの場所になった際、500年前の同盟を結んだすべての国が、争いを起こした国の敵になる事を定めている。

 同盟に参加した国は約50ヶ国。

 

 それら全てを敵に回す愚か者は居ないだろう。


 あの戦闘狂のバーンホーンでさえ、ウィンダムは襲わない。

 それで十分分かるだろう?



 ああ、ほら見えてきた。

 ウィンダムの北門。

 見えるだろう、大きな風竜の紋章。

 

 門の上から建物が見える。

 あれが、ウィンダムが誇る国立大学だ。

 各国から優秀な学生のみが入学を許されると言う、大陸最高の学び舎。

 

 大学付属の博物館や美術館、そして図書館は誰でも自由に立ち入る事が出来る。

 時間があれば見に行くといい。

 

 他にお勧めの場所?

 ならば街の南側の風景が美しい。

 この街の南側は巨大な湖に面している。

 獲れる魚も美味い。

 


 その他? 

 ちょっと危ない場所?


 女性と遊べる場所も、酒を飲める場所もある。それは東側だ。カジノもそちらだな。

 国の名前を冠したカジノに行くといい。あそこは国営だ。危険は少ないだろう。


 え? もっと危ない場所?


 それは確かに……ウィンダムには犯罪者や裏稼業の人間も多く紛れ込む。

 しかしわざわざ危険を冒さなくとも。


 そんな事をしなくとも、この街は十分に良い街だ。

 危険など……この街の外で十分に味わえるだろう。



 さぁ、夜になる前に宿に行くといい。

 街の中も広い。歩いているうちに夜になってしまう。


 裏路地?

 ああ、この裏路地は安酒場が連なっている。

 止した方がいい。

 身包みはがされる可能性もある。


 自ら危険な場所へ踏み入って酷い目に遭っても誰も助けてくれない。

 自由の裏側はそういう意味だ。


 しかし、そういう裏側が好きなヤツは何処にでも居る。


 そうだな……三年前にそういうヤツが居た。

 裏側の世界を覗いて面白がっているようなヤツだった。

 そいつはちょっとした事件に巻き込まれて……ああ、いや、止めて置こう。


 何、話せ、と?


 いや、誰にも話さないと約束だ。


 約束なんだ勘弁してくれ――




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