2話 「エルフの幼女」

「ぐあぁぁ!や、やめろぉぉ!」


振り返ると、黒い鎧を纏った男が店主に剣を向けていた。


店主は片足を切断され血を吹き出しながらのたうち回っている。



「やめろ?可笑しな事をいう人間だ。我が同胞のその言葉を無視してきた奴が言うセリフではないな。」


チャキ!。


父が剣を構えた。黒鎧はそれを無視し、ゆっくりと店主に歩みよる。


店主は無くなった足を引きずりながら必死に後ずさりすると父が止めに入る。


「やめろ!!ここが私、グラフィス辺境伯の地と知っての狼藉か!?」


父がそう言うと黒鎧は父に振り返る。


「これは、これは。辺境伯様で。探す手間が省けましたな。」


父は怪訝な表情を浮かべる。


「私を探していたのか?ふっ。面白い。私が辺境伯という拍を魅せてくれ‥」


バシュ!!!


「る?」


ボトッ。


その一瞬。ここにいる皆全てが喉を詰まらせた。


父の首が落ちたのだ。


「キャァァァ!!!」


母の悲鳴が響き渡る。


母は急ぎ父の首を持ち上げ、首を父の身体に何度も何度も取り付けようと試みる。


だが着くはずもなく、母のドレスが血みどろになるだけだ。


「ぐあぁぁあ!!」


またもや悲鳴が聞こえメルの視線が店主に向けられると、店主は縦二つに別れていた。


「次は子供か。子供を殺すのは不本意だが、今の世に侵された子は絶たねばならぬ。せめて一瞬にして息を止めてやろう。」


黒鎧は瞬時にクリスの前に立つ。


ボトッ。


また首が落ちる。


メルはそれを黙って見るしかなかった。


そしてクリスの目は「助けて」と訴えかける様にメルを真っ直ぐと見ていた。


メルの瞳には自然と涙が溢れだし、恐怖の余りか失禁し股を濡らす。


動けないメルに黒鎧は歩みより剣を振り下ろした。


ザシュ!!!


だが斬られたのはメルではなく。自分の母だった。


母がメルを庇ったのだ。


母はメルに崩れ落ちると、最後の力を振り絞り、涙ながらにメルを抱き寄せた。


「ごめん‥ね。私。‥最後まで貴方を守ってあげれない。ごめんね。‥メル。愛して‥いるわ。」


ズバシュ!!!


涙を浮かべ笑顔を作る母の首が、目の前で飛んだ。


血しぶきがメルの身体全体に飛び散りメルの感情が崩壊する。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


メルは勢いで手に持つ剣を抜き取り黒鎧に突っ込んだ。


だがその剣は掠ることもなく空を切る。


それでもメルは諦めず手に持った砂を投げつけた。


黒鎧はその瞬間動きを止める。そのタイミングでメルは剣を振るった。


バシュッ!!


しかし虚しく、斬り落とされたのはメルが剣を持つ左手だった。


「死を覚悟し、尚諦めず立ち向かってくるその心行きは良し。この世で出会わなければ良い強者となったろう。」


ドッ!!!


重い衝撃がメル腹部に響く。


そしてメルは吹き飛ばされ武器屋の壁を突き破り瓦礫の下敷きとなった。


(何なんだよいったい‥。)



黒鎧は事を終えるとダークエルフへと歩み寄り、首輪を外す。


「もう大丈夫だ。怖かったろう。」


そう言って黒鎧はダークエルフの頭を撫でるとダークエルフの目から涙がポトポトと落ちた。


「共にくるか?」


ダークエルフはコクコクと頷くと、黒鎧はダークエルフを連れその場を去った。


〇〇〇〇


メルは暖かい光に包まれている。


(暖かい。なんだこれは?死んだんじゃ‥)


徐々に意識が冴えてきて目を開く。


すると、メルの顔を心配そうに見つめる美しい幼女がいた。


耳は尖り肌は純白である。


(エルフ‥)


そして特に印象的だったのが瞳の色だ。右目が青、左目が緑の色をしていた。


「ってか俺の手!!‥!!?」


メルが無くなった手を見ると、傷口から溢れ出ていた筈の血が止まっていた。


「お前が直してくれたのか?」


メルの発言にエルフは首を縦に動かすと、メルに指示する様に扉の向こうを指差した。


「もう、ここは持たない。早く出て。」


「何言って‥。」


メルは発言しようとするが今の状況にようやく気づく。


武器屋が燃えている。今にも崩れそうだ。


メルは急ぎ起き上がりエルフに手を伸ばす。


するとエルフはキョトンとした表情を見せる。


「何してんだよ!早くここを出るぞ!」


メルの発言にさらに驚きを見せるエルフ。


それもその筈。この世界で人間以外の種族は誰彼構わず酷い仕打ちを受けていた筈だからだ。


そんなエルフの幼女に人間であるメルが手を差し伸ばしたのだ。


「おい!早く立てよ!崩れちまうだろ!」


そう言ってメルがエルフの手を無理やり取り、立たせようとするとエルフの足に痛みが走り、顔を歪ませた。


メルはそれに気づき、エルフの足を見る。そこには骨が見える程の傷を負っていた。


「なんだよこれ!!お前!俺を治しときながら自分を治さなかったのか?」


「君を治療中に天上が落ちてきて‥足に当たったの。」


「バカ!お前!自分の治療が先だろ!早く治せ!」


「無理。もう‥魔力なくなっちゃった。」


「な!!?」


メルは信じられないとばかりの表情をする。


「大丈夫。私を置いていってもいいよ。誰も君を恨んだりしないから。」


メルは目を大きく開けると、いきなり自分の頬をひっぱたいた。


その様にエルフはまた驚き目を丸くする。


(俺は一体何やってんだ?こんな幼い子にこんな事言わすなんてバカだろ!)


メルは強引にエルフを背中に背負い込んだ。


身体が小さい為、小さな幼女の体格とはいえドッシリと身体全体に負荷が掛かる。


だけどメルは歯を食いしばりエルフを引きずりながら動きだす。


エルフは拒否しようともしたが、必死なメルの姿に目を奪われると、静かにメルの背中へと身を委ねたのだった。


「まってろ!必ず助けてやっからな!」






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