3話 「答えは分からないけれど‥」
「待ってろ!絶対助けてやっからな!」
メルは必死にエルフを背中で支え進むと目下に刃渡り30センチ程の短剣が落ちていた。
メルは念のためそれを手に取ると、そのまま武器屋を出た。
出た先は、最早火の海と化し、綺麗だった街並みは無かった。
辺りには、身体中に傷を負って死んでいる者、灼け爛れ原形を留めていない者。中には致命的な傷は負っているものの意識があり、助けを乞う者もいた。
正に地獄絵図とはこの事だろう。
それに加えて、転がっているのは全て人間の老若男女で多種族の姿はない。
(状況からして、あの黒鎧は多種族の救世主って所か。だがこの状況でどっちが正義かなんてのは判断つかねぇな。)
メルはそう思うと自然にフッと笑った。
別に楽しい訳ではない。ただ笑うしか無かったのだ。
自分が今助けようとしているエルフは、状況からして確実に多種族と蜂合えば助けてくれるだろう。
だがメルは人間だ。合えば殺される確率の方が断然に高い。
相手にとって人間であれば女子供も関係ないのだから。
自分の行動が合っているのかは分からない。
だけどこの時のメルはエルフに助けて貰った一時の恩を優先した。
このエルフの幼女が自分の命と引き換えに自分を助けようとしたのなら、自分も答えねばという使命を抱き歩きだす。
そんな時、背後から声が掛かる。
「おい。それはエルフなんじゃないのか?」
その声にメルは振り向くと一瞬にして喉の通りを塞ぐ。
顔は焼け爛れ身体中生傷だらけ男だった。
メルは焦った。だが何か言葉を発さなければと思い。苦し紛れの言葉がでる。
「ちが、違う。」
だがそんな嘘は勿論通る訳がない。
「嘘をつけ!!!そいつはエルフだ!!よくも‥よくもこんな事を!」
男は目を血貼らせたエルフを捕まえようとするがメルがそれを短剣の腹で弾く。
「!!?何をする!!?」
「何をするじゃねぇ!此奴はお前に何もしてねぇだろ!」
「なんだお前。亜人の肩を持つのか?此奴らの仲間がこの状況を作ったんだぞ。見て分からないのか?多種族は悪だ。ゴミなのだぞ!今なら間に合う。さぁ、其奴を寄越せ。」
エルフが怯え震えているのがメルの肩を通して伝わった。
「黙れ!!多種族がなんだ!?此奴らだって感情がある!ゴミなんかじゃねぇ。」
メルは震える手に力を入れ短剣を構えた。
「そうか。お前は多種族の肩を持つか。同じ人間だから助けてやろうと思ったのに残念だよ。それに加え俺に剣を向けた。これは重罪だ。‥重罪だよ。」
男はフラフラとメルに一歩。また一歩と歩み寄る。
メルはジリジリとエルフを抱えたまま、後ろへと下がるが短剣は降ろさない。
「おーおー。これでも剣は降ろさないか。立派立派。だが‥子供に‥何がてきるぅ!!!!」
男がイキナリ襲いかかってきた。
メルはエルフを守る為にエルフを置き、そのまま男の腹部にもたれかかる様に短剣を刺した。
ザシュ!
「ぐっ、ふ。‥こ‥のクソガキがぁぁあ!!!」
男は持たれかかるメルを上から何度も殴りつけ、突き放す。
突き放されたと同時にメルは短剣を抜き取り、再度立ち向かう。
今度は短剣を振りかぶり身体を回転させる。剣の重たさを利用し、遠心力で男の足を斬りつけたのだ。
だが5歳の身体で、尚も片手しかない状態のメルの筋力では骨までは切断できず、途中で止まり、男の足に刺さったまま、手から短剣を離してしまう。
しかし、効果は抜群だった。
男は転げて、急ぎ短剣を抜き取り足元に落とす。
「ぐぅおぉぉ!!」
男は喚きだすが、その隙をメルは逃さない。男の足元に落ちた短剣を再度手に取り刺した。
刺した場所は太もも辺り。
男はまた喚き、今度は逃げ出そうと背を向けるがメルは逃さない。
飛び上がり背中を刺した。
「ぐうぁぁぁあ!!辞めろ!!死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」
メルはまた短剣を抜き取りもう一度突き刺した。
自分の心境がわからない。
だけどここで逃す訳にも背中を向ける訳にもいかなかった。
油断は出来ない。
悲痛の表情でメルはそのまま何度も何度も短剣を振り上げては刺した。
気がつけば、男はもう動かぬ人形となっていた。
メルはそれを確認すると、メルは再びエルフの側に戻る。
戻るとエルフは無言でメルを抱きしめた。
雨がポツリと落ちる。
そして数秒後にはこの戦いの終わりを告げるかの様、大雨となった。
「幼子よ。何故エルフを助けた?」
疲れからか意識の遠のくメルに誰かが語りかけてきた。メルは答える。
「理由は‥俺を助けてくれたら。‥いや俺がそうしたかったからだ。」
「ふむ。では最後に問おう。この世界をどう思う。」
メルはフッと笑う。
「こんな‥こんな歪んだ世界は、糞‥食らえだ‥よ。」
そう言ってメルは意識を手放した。
「いい答えだ。そしてエルフよ。いや、ハーフエルフか。そちの目を見せよ。」
エルフの顎を引き寄せ瞳の色を見つめる黒鎧。
「‥魔眼持ちか。面白い。お前の名は?」
「‥リル。」
「リルか。良い。我が元にくるか?」
リルは首を縦に動かすと、黒鎧はリルとメルをヒョイと持ち上げた。
すると黒鎧の前に空間の亀裂が入り狭間が開かれる。
リルは驚きの表情を見せるが、黒鎧はそのまま2人を連れ狭間の中へと姿を消した。
====== ====== ====== ====== =
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます