五の火は再び飛ぶ

「準備が整いました」


サンクが私を訪ねた理由は思った通りだった。地球からなんとか帰ってきて、ヨンの行方不明の話をし、助けに行く決心をしてからは、いろいろと試行錯誤していたようであった。手伝って、等と言われたらそうするつもりだったのだけれど、全くそんなことは無かった。後ろから覗いてもまるで気付かないのでさすがに泣きそうになった。子供にかまってもらえなくなった親の気分を味わった。私がそうなってしまうほど、サンクは彼の思う準備に熱心であった。なんならこのまま数十年と研究を続けてもおかしくないような熱量があった。ウノとかヨンの研究データとかも貪るように見てたし。


「ヨンを助けに行く準備か?」

「はい!・・・・・・いや、それだけじゃないけど」

「ぜひ見せてくれ」

「きっと驚くよ。ついてきて」


言われたとおりにサンクについて行くと、物置に赤い厚い布の掛けられた、全長五メートルはありそうな何かが立っていた。思わずポカンとしてしまう。開いた口がふさがらない。なんだこれ、とサンクに視線をやると、サンクはニヤリと笑った。サンクの全身からやってやったぞ、というオーラがみなぎっている。確かに私はサンクの準備とやらには干渉しなかった。いや、させてもらえなかったが正しい気もするが、それはそれとして。こんな巨大なものを造っていたのに気付かなかったのは、凹む。まぁ、それだけサンクが優秀であったということだったのだろうけど。


ふと気付くと、サンクは私の合図を待っていたようだった。やってくれ、と促すと布は取り払われ、それは私に姿を見せた。


それは機械であり、無機物で構成されているのが一目で判る。頭部とおぼしき部分の形状はクリスタルのような四角錐に直方体を合わせた形。瞳のように見えるのは赤い光を反射する四つのレンズ。体高の三分の二を占めるのは細長い八本のアーム。アームの先についた円盤型のモジュール。


私がこれを見てまず思い浮かべたのはT2ファージと蜘蛛であった。次に思い浮かんだのが大量にこれが空から降ってくる、ハリウッドじみた光景。これが実際に降ってきたとしたら、地球は大パニックになるだろうと容易に想像できた。なんなら製造データもらって、大群で地球訪問でも面白いと思う。もしかして、ふつうの宇宙人はそんな気分で地球を攻めるのだろうか。出会えたらぜひとも聞きたいものである。


サンクが誉めてほしそうだったので頭を撫でる。うん。ブニュっとする。

「それで、一体こいつでどうするつもりなんだ?」

「どうする・・・?」

「これからヨンを助けに地球に行く。そうだろ?」

「そうだね」

「・・・正直、ヨンを助けに行くのにこいつはどう役に立つんだ?」

「・・・・・・・・・ふっふっふっふっふっふ」


体を丸めて含み笑いを始めたサンク。研究やらのしすぎでおかしくなってしまったのだろうか。重傷だったら精神クリーニングしなくちゃだろうか。


「よくぞ聞いてくれたな我らが父よ・・・!それでは懇切丁寧一から十まで話してやろうではないか!!ハァーハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


疑問は尽きないが、どうやらサンクにも思春期が来たらしい。思春期というか中二病?一体どこから拾って来たもんだかまるで検討が付かないけれども。


とにかく、丁寧な説明とやらを聞こうじゃないか。

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