致死量の愛に潰される


「お前が死ぬなら、その時は俺も一緒だ」




圧殺されそうなほど濃いブルーを背景に

彼はあどけなく笑った


青空を背負うのが

こんなに似合う男がいるものか

呼吸も忘れて魂を奪われる


目に痛いほどの太陽

コバルトブルーをぶちまけたような濃い青空に

一筋流れる飛行機雲


彼は青空を背負って

逆光に陰ろうとも尚空色に負けぬ

ぐらぐらと煮え立った空と同じ青に溶ける瞳を

うっすら細めて目尻を下げ

まるで幼児のような賢者のような

穏やかに凪いだ笑みを浮かべながら

その緩やかに弧を描いた唇から

まるで比例しない死の匂いを溢す


彼は美しく笑う

筆舌に尽くしがたいほど

えも言われぬ狂気を孕んだ美しさだ


首筋に一筋つうと冷や汗が伝う

なぜだか周りから一切の雑音が消えて

自分の心音ばかりがやけに耳に障る

まるで時さえ止まったようだった


しかし、それと同時に

言い知れぬ恍惚も、確かに感じた


この魔性の獣のごとき

恐ろしくも美しい男が

自分の為に生きて、死ぬ、と告げている


いったい今まで

これほどまでに質量と破壊力を持った愛を

受け止めたことなどあっただろうか


それはまるで

原子炉で臨界に達する

核燃料を飲み込まされた様

青く発火する致死量の愛に

押し潰されて死にそうだ


けれどなぜか

その重みが

痛みが

息苦しさが

不思議なほどに心地よい

気でも狂ったのかと自問するほど


この男に愛されるのは

自らの生きる命を感じられて

生の快感にゾクゾクする




「お前のいない世界に、価値はないからな」



コバルトは今日も美しく笑う


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