素直

4月5日

豪雨。

今週見に行く予定だった桜が雨で流されてしまった。 もうほとんど葉桜だ。


せっかく彼が誘ってくれたのに。


彼が落ち込んでいたので「葉桜も好きだ」と伝えた。

本当は心底ガッカリしているけど。


私が大切だと思っていたり、大事だと思っているものって、どうしてこうも壊れたりなくなったりするのか。

ため息しか出ない。




4月6日

今日も雨。

とても気分が憂鬱だ。

彼が「明日楽しみだね」と言ってくれた。


明日、彼に告白する予定だったのに。


私はいつも悲観的で、口を開けば皮肉ばかり言う可愛げのない女だ。

でも満開の桜の下でなら、彼に素直な気持ちを伝えられるんじゃないか、なんて思ってたんだ。


明日が怖い。




4月7日

雨。

彼と喧嘩した。

原因は私。


「私が疫病神憑きの雨女なせいで、桜も青空も逃げた」

と、いつもの調子で冗談を言ったら、なぜか彼が怒って帰ってしまった。


電話もかけてみたけど繋がらないし、LINEも応答がない。


終わった。

だめだこりゃ。




4月8日

雨のち晴れ。


「疫病神が取り憑いているだとか、雨女だとか、僕の大事な人に対して酷い悪口を言うのをやめて下さい」


という、お叱りのメッセージが入っていた。


一瞬、彼が何を言っているのか分からなくて混乱した。


「雨でも葉桜でも、君と一緒なら僕は楽しいです。青空や桜が逃げても、僕は君から逃げません。 君もいい加減、自己否定や自虐に逃げるのはやめて下さい」


と、メッセージは続いた。


どういう意味だ? と暫く考え抜いて至った結論は、どうやら彼も私を好いてくれているらしい、という事だった。


今まで全然気付かなかった。


「こっちが恥ずかしくなるようなLINE送ってくんな。君は要するに何を伝えたいんだ? あと昨日はすまん」

と返信。

彼からの返事を待つ。


今、クッションを脇に挟み抱えつつ、歯をカチカチいわせながら、この日記を書いている。


やっぱり私は、どうにも素直になれない。


ふと窓の外を見たら、虹が出ていた。




4月9日

晴れ。


「君が好きだ」

というLINEが届いた。


どう返信したらいいものか、現在考え中。

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