乳白色のタイムカプセル

「やあ」


「久しぶり」


「元気だった?」


「まあまあかしら? 貴方は?」


「そこそこやってるよ」


「そう、よかった」


「……」


「じゃあ、まぁ、行きましょうか?」


「そうだね、行こう」


「あれから10年経ったなんて信じらんない」


「本当にね、あっという間だったよ」


「27歳よ、27歳! こないだまで17歳だったのに」


「時間て残酷だねえ」


「本当に」


「……」


「……」


「運転、代わろうか?」


「大丈夫。これから力仕事しなきゃなんないんだから、体力を温存してて」


「学校が廃校になるって聞いてさ」


「うん」


「君から連絡来るんじゃないかって思ってた」


「うん」


「あ、煙草吸っていい?」


「どうぞ? でも窓はあけてね」


「……実は少し緊張してる」


「私も」


「君は変わらないなあ」


「貴方は少し老けたわね」


「苦労してんだよ」


「お人好しだものね」


「ここの桜並木」


「うん?」


「ここの通学路の桜並木、好きだったんだ」


「綺麗よね」


「うん」


「私も好きだった」


「今年はまだ咲いてないね」


「まだ寒いもの」


「でも、咲いてなくて良かった」


「そうね」


「きっと綺麗過ぎて死にたくなる」


「懐かしい!」


「あんまり変わってないな、この学校も」


「トランクにシャベル二本入ってるから、取って貰える?」


「うん」


「取り壊されちゃうの、なんだか寂しいわよね」


「確かにね」


「まぁ、良い想い出なんかあんまりないんだけども」


「……うん」


「ねえ?」


「なに?」


「今日来てくれてありがとう」


「うん」


「ごめんね」


「いいよ、いいんだよ。 謝らなくていいから」


「うん」


「俺、不謹慎だけど、ちょっとワクワクしてるくらいだからさ」


「……」


「だから、気にしないでいいから」


「うん」


「このデカい桜の木も、今日で見納めかあ」


「……」


「君こそ大丈夫? 色々思い出して苦しくない?」


「正直、苦しいかな」


「うん、だろうね」


「貴方は、後悔してない? あの時のこと」


「後悔してないって言ったら嘘になるけど、あの時はああするしかなかった」


「……」


「それから」


「それから?」


「あの時ああしなければ、君との縁も切れていた、と思う」


「……そうね」


「どこら辺に埋めたっけ? 夜のうちに見つけなきゃね」


「んふっ!なんだかおかしい」


「ん?何が?」


「貴方のその気が抜けるほどの気軽さがね、おかしくて……」


「そうかな?」


「まるでタイムカプセルでも見つけに来たみたい」

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