ぼくらはみんないかれてる

「悪趣味」


「まぁ、良い趣味とは言えないよなあ」


「大塚くん、いっつもこんなことしてるの?」


「うん」


「やめなよ、バレたら大変だよ?」


「そうだね。 君も見てみる?」


「この大きな望遠鏡、自分で買ったの?」


「うん、小遣い貯めて買った」


「うわあ、すごい遠くまで見える」


「だしょ? 当初は星を眺めるのに買ったんだけどね」


「……で、今は色んな人ん家覗いて回ってる、と」


「うん、楽しくなっちゃってね」


「近藤さんさ、三丁目の爺さん知ってる? ほら、あの、犬好きのさ」


「ああ、沢山ワンちゃん飼ってる優しそうなお爺さんでしょ?」


「うん」


「保健所から引き取ってきてるって聞いたよ?」


「そうそう」


「それがどうしたの?」


「あの爺さんさ」


「うん」


「犬とヤッてた」


「は?」


「いや、犬とヤッてた」


「え? は? なに?」


「日替わりで違う犬といたしてる。 元気だよな」


「え……冗談でしょ?」


「そんなクソほど笑えない冗談言ってどうすんの? 実際に見てクソほど笑ったけど」


「……」


「でさ、学校の近くにさ、寺あんじゃん?」


「うん」


「あそこの坊さん知ってる?」


「え、いや、知ってるよ? っていうか、よくお葬式とかでお世話になってるっていうか……」


「あ、顔見知り?」


「うん、結構小さい時から知ってる。 良いご住職さんだけど……」


「んー、言わない方がいい?」


「……なんか、やってるわけ?」


「うん。 まぁ、やってるワケなんだけど」


「もう、なんか、もう……ああ!! ぶっちゃけちゃっていいよもう!!」


「ああ、そう? 三島さんの母ちゃんと不倫してる」


「……はあぁ!? 三島さんて、あの、超優等生の!?三島さんの!?」


「うん、そーそー」


「あの真面目そうなお母さんが!?」


「うん、やべーっしょ」


「確かにやべー……」


「ドチャクソエロいことしてたわ」


「……」


「言う?」


「内容は言わないでいい!! 言わないでいいから!!」


「そう?」


「今度からご住職をどういう目で見たらイイのか分かんないわ……」


「エロ坊主」


「ド直球すぎやしませんか?」


「だってエロ坊主だし」


「うん、確かにそうだけどさ……」


「そーいやさ、高橋先生いんじゃん?地理の」


「ホトケの高橋?」


「うん、あのいっつもニコニコしてる高橋先生」


「今度は何よ?」


「家に帰るとさ、必ず奥さん殴るんだよな」


「え」


「腹とか背中をさ、殴る蹴るすんだよ。 顔殴ると目立つからだと思うんだけど」


「え、え、ちょっと待ってよ、通報した方がいいんじゃないのそれ!?」


「嫌だよ、下手したら俺が覗きしてんのバレるかもしんねーじゃん」


「そんな……だって」


「いいんじゃない? 奥さんもマジで殺されるかもしんないって思ったら逃げるでしょ」


「……ねぇ、大塚くん」


「うん? なに?」


「大塚くん、変だよ?」


「そっか、変か」


「なんかさ、変っていうか、おかしいよ」


「俺もそう思うよ」


「なんか嫌なことでもあったの?」


「特にないよ」


「悩み事とか」


「小遣い足りなくて『ワン〇ース』の新刊買えないことくらいかな?」


「ねぇ、もうやめた方がいいって、覗くの……本当に頭おかしくなっちゃうよ!?」


「なんかさ」


「ん?」


「安心するんだよね、こうやって、色んな人ん家覗くの」


「安心するって、なにに?」


「犬好き爺さんがメス犬に必死こいて腰振ってる姿とか、 坊さんが人妻にむしゃぶりついてる様とか、 ニコニコ笑いながら奥さんボコボコにしてる先生とか見てるとさ、 安心するんだ。 『俺、ちょっと頭おかしくてもいいんだ』ってさ」


「大塚くん……」


「俺ってさ、友達とかいないじゃん? それこそ、話しかけてくれんの、近藤さんくらいでさ」


「うん」


「人嫌いっていうかさ。 普通に人と話して、普通に人に合わせて、普通に楽しそうに生きてる奴らが、昔からよく理解出来なかったんだよ」


「うん」


「星を見に来た時に、たまたまあの『犬好き爺さん』の交尾を見かけてさ、そっから色んな人達を覗くのにハマって、 そんで覗けば覗くほどすっげえ安心していったんだよ。 普通を装ってるだけで、みんなどっかおかしいんだって」


「……」


「あと、俺結構まともな方だったんだって」


「……」


「おかしいのが普通なんだよ。 みんなどっかおかしいんだ。 おかしいのが普通なんだ」


「……」


「だから近藤さんも普通だよ」


「……」


「ポケットになに隠してんの」


「……」


「大丈夫だよ」


「……見たの?」


「見たよ」


「見てたの?」


「見てたよ」


「学校のウサギ」


「……」


「大丈夫だよ、 誰にも言わないし、 俺が腹割って話せる奴なんていないよ」


「……うん、そうだね」


「俺、学校の中で君が一番『まとも』だと思ってたから、ビックリした」


「……」


「人気者で、誰にでも平等に接して、勉強も運動も出来て」


「……」


「今日、学校大騒ぎだったね」


「そうだね」


「なんであんなことしたの?」


「昔から、虫とか、猫とかバラバラにするのが楽しかったの。 意味かぁ、意味とか……うん、特にないかな」


「そう」


「自分より弱いものを見下したり、痛めつけるのが好き」


「うん」


「大塚くんみたいなボッチの陰キャを構ってあげるのも楽しくて好きだよ。 大抵みんな嬉しそうな顔するんだよね。馬鹿みたい!」


「うん」


「怒らないんだね?」


「怒らないよ。 本当のことだからさ」


「ねぇ?ウサギのこととか、今日のこととか、喋りたいなら喋ってもいいんだよ? みんな大塚くんのこと信じないだろうけどさ!」


「だから誰にも言わないよ」


「ふぅん……つまんなー……」


「近藤さんのこと大っ嫌いだったんだけどさ」


「あ、そうなんだ? 自分で言うのもなんだけど、顔も可愛いし、スタイルも良い方なんだけど」


「うん、大っ嫌いだったんだけど」


「二回も言わなくてイイじゃない」


「ウサギ小屋ん中で楽しそうにウサギを刺して回る近藤さんを見て、なんか俺、すっげえ安心した」


「……大塚くん、やっぱり頭おかしいね」


「俺もそう思うよ」


「今日は面白かったから、刺さないでおいてあげる」


「うん、ありがとう。 よかったらさ、また覗きに付き合ってよ」


「いいよ。 でも今度また私を覗いたりしたら目玉抉るからね」


「うん、いいよ」

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