孤独同士で珈琲を(前)

貴方はいつも隅っこで膝を抱えているけど、たまにはこちらに来て、こたつで温たまってみたらどうかしら?


首が伸びていようと、顔が紫色になっていようと気にしないから、ほら、こっちにいらっしゃいな。


まぁ、そうよね、貴方が先にここに住んでいたんだもの、私のこと、気に入らないのも分かるわ。


そうなの、あらあら。

あそこの梁に縄をかけてね。 なるほどなるほど。それはさぞ苦しかったでしょう?


え?怖くないのかって?

怖いと言われれば怖いわね、こんなに首が細くて長い人なんて、見たことないもの。


コーヒー飲む? というか、飲めるのかしら?

その首だと、飲み込むのが大変そう。


やあね、馬鹿になんてしてないわよ? ただ素直に心配してるだけ。


でも貴方、勿体無いわね、まだ若いのに。

まぁ、生きるのって苦しいことのが多いから、気持ちは分からないでもないわ。


……ああ、なるほど、死ぬほど好きだった女(ひと)がいたのね。 その人に捨てられて衝動的に。

そうかあ。


私、素敵だと思うけど。

え?だから、馬鹿になんてしてないったら。本当に素敵だと思っただけ。


自分の命を投げ捨ててしまえるくらいに、そのひとが好きだったんでしょう?


イイじゃない?そんな風に想える程の人に逢えたなんて、羨ましいわあ、私。


私はね、そうねえ、人を心の底から好きになったことがないのよ。

他人よりも、家族よりも、自分が宇宙一大事。


貴方みたいに殉じてしまうような恋に憧れないでもないけれど、私には絶対無理ね。


目に見えるものも、見えないものも、最終的には壊れてしまうでしょ?

例えば人や縁ね。


どうせ壊れてしまうものに時間やお金や労力を割きたくないのよ。

ほら、私も最後には死んでしまうでしょ? 最期の時まで手元にある自分自身を大事にしていたいのよ。


……あら、呆れた顔してるわね。 まぁ、私はこういう人間なのよ。 貴方とは真逆ね。


引っ越してきたばかりだし、私、しばらくの間はここに住むつもりだからよろしくね。


申し訳ないけど、嫌なら成仏してちょうだい?


貴方もまだここに居るつもりなら、孤独な者同士、たまにはこうしてコーヒーを飲みながらお話しましょう。

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