第4話 さっそく妹に正体がばれ....って、妹も転生者かよ!?

翌日。


 朝食を食べ終えた俺は部屋に戻り、動きやすい袖の短い服に着替えていた。


 今日は例の訓練の初日だ。


 朝から父がやる気満々で、剣の素振りをしていた。

 まだ一度も剣を握ったことの無い十二歳相手に何をするつもりやら。嫌な予感しかしない。


 そんな事を考えながらもいそいそ着替え終えた俺は、少しでも時間を先延ばしにするため、ぎりぎりまでベッドで横になることにした。


 そんな俺の部屋にノックの音が鳴り響く。


「ヘル兄さん、アンリエットです。少し聞きたいことがあるのですが、入ってもいいですか?」


 どうやらアンリのようだ。

 俺が適当に返事をすると、部屋に入ってきた。


「で、俺に聞きたいことって?」


 最近アンリから俺に話しかけることはかなり少なくなっていた。

 彼女の質問が気になり、俺はベッドから体を起こす。


「はい。聞きたいこと....と言っても、ほぼ確信したことなんですが。確認したいんです」




「ヘル兄さん....あなたは転生者ですよね」



「....はぁ? な、なんでそうなるんだ?」


 おいおい、いきなり急展開かよ。

 いや別にバレてもやましいことは無いが....特に家族にバレたりしたら色々面倒だろ?


「隠しても無駄です。昨日の挨拶、旅の人から教えて貰ったというのは嘘ですよね」


「い、いや? そんなことは無いぞ」


 俺が否定すると、はその口から決定打を打った。


 アンリは日本語で


「あなたのことは知っているんですよ。名前は....御子柴さん、で合ってますよね」


 と、前世の俺の名前を言い当てたのだ。




「なんで、それを....」

 俺は動揺を隠せず、戸惑う。

 いきなり妹から転生者だとバレ、しかも前世の名前まで言い当てられる。

 これで動揺するなというのが無理だ。


 それに加え、彼女はさらなる爆弾発言を繰り出す。



「私も転生者ですから。あの怠慢天使のミスでトラックに引かれた....ね」










 とりあえず落ち着きを取り戻した俺は、アンリに椅子に座るよう促し、俺はその正面になるようベッドに腰掛ける。


「はぁ。じゃあ改めて自己紹介。今世の名前はヘルムート=アルベール。

 前世の名前は御子柴臣、日本人の高校生。享年十七歳で高二になる前に死んだ。死因はクソ天使によるトラックテロ」


「今世の名前はアンリエット=アルベール。

 前世の名前は中留来望なかどめ くるみ、同じく日本人の高校生。享年十八歳で卒業前に死去。死因は怠慢天使による職務放棄でトラック事故」


 ....


 ......


 ........


 で、どうしろと。

 なんだ、とりあえず世間話でも?


「まぁ、なんだ。お互いに災難だったな。あの堕落天使が仕事放棄してなければ死ぬ思いなんかしなくてよかったのに」


 そう話を持ち出してみる。今の自己紹介からしてアンリもあの天使には会ったようだ。


「そうですね。私は別に死んでしまった事には怒ってはいませんが....すごく怖かったですが気にしてません。ですがあの天使の態度には一言二言言いたかったです」


 おお、あの天使の態度に黙っていられたのか。

 俺なんか何回血管が切れそうな思いをしたか。

 まぁ、あの空間に肉体という概念が存在したかは謎だが。


「それで、なんで俺の名前を?」


「例の天使に聞いたんです」


「そうか。ならなんで俺の名前なんか聞いたんだよ。多分前世では、お前と面識はなかったと思うけど」


 不思議に思い、俺がそう尋ねると彼女は俺の両目を真っ直ぐと見据える。


「そうですね。積もる話もありますが、あなたの記憶が戻るに当たっていくつか伝えたいことがあったのです」


 伝えたいことねぇ。

 あの天使がまた何かミスってて、それを連絡しに来たとか? 充分ありえる。


「伝えたいことって? あの馬鹿天使がまた何かやらかしたのか?」


 なんか天使としての威厳とか無いな。

 少なくとも俺の中からは既に消えている。


「いえ、私が伝えたいこと。それは....」


 中留来望だった少女は俺の顔を、真剣な眼差しで見て、それを口にした。



「あなたが前世で万引きしている所を見ました」



 ....うん? 万引きしたこと?


「そんなあなたを信用出来ない。しかし、これからも兄妹として付き合う中ですし、何よりこのまま放置する事を私が許せません。なので....」


 アンリでは無い、中留来望は俺の事を指差して宣言する。



「私はあなたを更生させますッ!!」



 ......はぁ?


 いや待て待て。ちょっと考えさせてくれ。


「まず、いつ俺が万引きする所をみた?」


「はぐらかすつもりですか? トラックに引かれる直前です。私が死んだのは、私があなたを止めようとした瞬間でした」


 わかっていたけど、まぁそうなる。


「じゃあ、その前に俺と面識は会ったか?」


「ありませんよ。制服の違うものでしたし完全に赤の他人でした」


「うん、もうここで分かんなくなる」


「なにがです?」


 首を傾げる元JKの十二歳。


 いやまぁ、万引きをしてる人を止めるのはわかる。

 堕ちる前の俺(厨二感)だったら止めに行くだろう。


 だが、だ。


「初対面の、しかもたかが万引き未遂の少年に、いちいち更生とかなんとかいうか?」


 これから付き合う中。うん、わかるぞ。

 これが喧嘩上等の唯我独尊の非行少年なら心配だしわかる....いや、この場合は更生ではなく逃避を選択するべきだな。


 どちらにしても初対面の相手に入れ込むほどの事じゃない。

 ただの面倒見のがいい人なのか、正義感で動く人なのか、バカでアホなのか。


 俺がそんな風に中留来望の人格について考えていると、その本人であるアンリは....怒りに染まっていた。

 お顔真っ赤だ。


「たかが万引き未遂....? そのたかが万引き未遂が発展したらどうするんですか!? 万引き未遂が万引きに、万引きの対象が現金に、そして強盗から殺人にまで大きくなっていくかもしれないじゃないですかッ!!」


 おおう。この子はあれだ、さっきの選択肢で言うなら馬鹿みたいに正義感で固まった人格持ってるな。いや貶してるんではなくね。


「少しでも犯罪が起きるリスクを減らす。それは当たり前で大切な事なんですよッ。信じられません、今どき小学生でもそんなこと分かりますよ」


 言っちゃ悪いけど....そりゃぁ小学生だからなぁ。

 小学生は善悪の判断が鈍いけど、分かりきった犯罪を犯すようなやつは少ない。

 皆親父が怖いのだ。


 まぁ、そんなことは口に出さず俺は相槌をうつ。


「お、おう。俺が悪かった。そうだな、犯罪は小さいものから始まるもんなッ。種はあらかじめ詰んどかないとなッ」


 俺がそう返事をすると、取り敢えずは落ち着きを取り戻したようだ。


「分かってくれたのならいいです。しかしそれはそれ、私はあなたをまだ信じきった訳じゃないから......」


 アンリが言葉を続けようとした時、外から父が呼ぶ声が聞こえてきた。


「おーいッ。そろそろ訓練を始めるぞッ!! 」


 アンリが部屋に来て時間が経つ。

 約束の時間になってしまったようだ。


 俺とアンリは外にいる父に適当に返事を返し、それぞれ部屋の扉へ向かう。


 アンリは先の言葉の続きを、部屋に出る前に口にした。



「私があなたを兄だと信用出来るようになるまで監視、更生させます」



 まじで勘弁してくれよ....。

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