第3話 家族に訝しまれるけど乗り越え....た?

アンリに手を引かれるまま、食卓に着いた。


 既に俺とアンリ以外は席に着いており、俺を待っていたようだ。


 ....いや、一人例外がいるな。

 そう俺が思うと同時にそいつは怒声を浴びせてくる。


「おいこの出来損ないがッ。遅いんだよ、もう飯に手をつけちまったじゃねぇか!!」


 兄、エリク。兄妹の中で一番年上だ。

 逆立つ金髪、整った顔がそのアホそうなオーラがぶち壊している。


 今世の俺の黒髪が気に入らないと、何かと突っかかってくる....正直近年稀に見ないアホさ加減を持つ兄だ。まぁ近年も何も前世の常識だけど。


「ったくよ、腹減った俺を一分も待たせやがって。だいたいお前は俺等とは違って黒髪、嫌いなんだよその髪色ッ。謝れ....痛ッ」


 黙って席に着く俺に、さらに詰め寄るエリクの頭を叩く者がいた。


 姉、アレット姉さんだ。

 もはやこの家族の特徴とでも言うべき整った顔。アンリと同じく背中に流した金髪。


 暴走しがちなエリクを止めてくれるストッパー役に、いつの間にかはまりこんだ面倒見のいい姉だ。


「エリク兄さんはうるさいよ。ヘル、ちょっと家族の皆と違う特徴持つことなんて珍しくないわよ。このバカ兄さんがうるさいだけだから」


「違う特徴を持つことがおかしいんだよ。代々受け継がれてきた金色の髪を持てないこいつは出来損ない、そう言って何が悪いんだッ」


 エリクはさらにヒートアップ。


 俺が庇われたせいか、それとも妹に頭を叩かれたせいか....まぁ前者だろうけど。


 そこに父の一喝。


「止めないかッ。代々受け継がれてきたのは確かだが、所詮一代限りの準男爵の特徴。そんな物に価値はない。食事が冷める、頂くぞ」


 それでもエリクは何か言いたそうだったが、父の鋭い眼光に竦み、黙って食べかけていたご飯に手をつける。


 ま、すんごい憤怒の視線が俺に注がれてますけどね。


 ようやく静かになり、各々が食事に手をつけ始めた。

 それを確認した俺は、両手を合わせて食事の挨拶をし、スープに手を伸ばしたところで周りの視線に気づいた。(エリクは食べることに夢中。周りをよく見ろ)


「ど、どうしたんだ? 俺の顔に何かついてる?」


 そう聞くと母が口を開いた。


「今のは何? こう....手を合わせていたけれど。それにその喋り方に一人称は....?」


 まずい。時間が経ったせいか、前世の人格が今世人格を消すぐらいに強く表に出てきてる。


 それに今世では食事に挨拶はあまりしないのか。


 てか本当に前世と今世の記憶が混濁してる。両方の記憶に欠損があるな。


 習慣は抜けないみたいだけど....自分じゃ分かんないけど細かい記憶が少し抜けてる気がする。


「旅の人が教えてくれた食事前の挨拶だよ。話し方は、さっきまで読んでた本の主人公に影響を受けたんだよ」


 そう伝えると、納得と驚きの反応が。


「あの勉強嫌いのヘルが本を....ッ。あなた、やっとヘルがやる気を出してくれましたよッ」


「うむ、うむ。これで後の課題は実技だけか。だがこの子には才能を感じられる。上手くすれば特待生での入学可能かもしれんッ」


 おい今世の俺。親にどれだけ迷惑かけてんだ。


 特待生....学校にでも連れていくつもりだったのか。

 にしても実技か。何かの工作....と考えるほど馬鹿じゃない。


 ここは魔法が存在する異世界。


 考えられるのは、ハリウッドよろしくの魔法学校、騎士や冒険者を育成する学園......などだろうな。


 そこの親バカは才能がうんたら言ってるけど....どこをどう見て才能を感じたのやら。


「よしよし。ヘルがやる気を出したのは好都合だな」


 そう言うと父は俺の顔を見据えた。


「学園の試験は来年。明日から座学と実技の訓練を始めるぞ。いいなッ」


 父はやる気に満ちた顔で話を進めた。


「ちょっ、明日からって急すぎ....」


「何を。今まで引っ張ってもやる気を出さなかったのはヘルだろう」


 ....確かにそんな記憶がある。あの時の父と母はとても悲しそうに....。あ、やばい。エリクじゃないけど、俺が出来損ないに思えてきた。


「それにアンリも半年も前から座学を積んでるんだぞ。妹に置いてかれて悔しくないのか?」


「アンリが?」


「ああ。危険だと伝えるがなぁ....騎士になるって聞かなくてな」


 俺は隣で食事を続けるアンリの顔を見る。


 驚いた。てっきり貴族の娘は皆政略結婚に出されたりするものだと....。家は一代限りの準男爵。あってもおかしくは無い....けど、この親バカ二人がするわけが無いか。


「じゃあアレット姉さんは....?」


 エリクは十七歳、アレット姉さんは十五歳。


 馬鹿なエリクは答えが見えているから無視するが、アレット姉さんは頭がいい。

 学校にいないのが不思議なくらいだ。


 父は今にも地に沈みそうな、暗い表情になる。


「ああ....アレットは....」


「私はもう心に決めた人がいるの。今は彼に見合う女性になるための勉強の日々よ」


 なるほど。若いのに流石だな。


 親馬鹿が一人沈んでる気がするが、まぁここは無視。母でさえ放置してる始末だ。


 ....んんんんー?


 ちょっと待て。姉は女性で相手も決めている。俺は次男で、アンリも少女だ。


 ....まさか....ね。


「父さん。次期当主って....誰?」


 答えは分かりきっている。

 だが、聞かずにはいられなかった。


 俺がそう聞くと、食卓に気まずい空気が流れる。

 何か皆明後日の方見てないか。目が死んでるぞ。


 ......なるほど。

 父が急に訓練だとかなんとか急いでる理由がわかった。


 俺が察してると、その気まずい空気を作り出した張本人が勢いよく立ち上がる。


「そんなの俺が継ぐに決まってるだろッ。出来損ないが気にしなk


「父さん。俺、頑張るよ....」


「おい、無視すんn


「ああ、頑張ってくれ。我が息子よ」


「父さんまでッ!?」


 何かすんごい使命感湧いてきたわ。

 これに家族任せるとか、家庭崩壊どころじゃ絶対済まないからな。


 俺は変なプレッシャーを感じながらも、明日の事を考えながら席を立った。




 アンリの視線に、その時は気づかなかった。

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