第2話 記憶所持での赤ちゃん転生は避けれました。
朝。俺は柔らかなベッドの上で目が覚める。
いや。醒めた、と言うべきか。
俺が誰なのか、何者だったのか....思い出せる。
「記憶が戻っている。俺の前世の記憶がッ」
ここはドラナヴィア王国、その中に存在するアルベール準男爵の領地。
アルベール邸、その一室に俺はいた。
と、ちゃんと今世の記憶も残っているな。この感じだと、俺の方の人格が強い見たいだけどな。
改めて。
前世の名前、御子柴臣。犯罪を未遂で死に、転生を果たした男。
黒髪、黒目は日本人なら当たり前。人並み程度のコミュ力を持ち合わせた善良人だった。
アフターは....
今世の名前、ヘルムート=アルベール。アルベール準男爵家次男。貴族に生まれ変わった男の子。
鏡を覗いて見れば前世と同じ黒髪、深緑の瞳の......
十三歳ですッ☆
いや、うん。俺はてっきり前世の姿のまま飛ばされると思ってたのよ。
まさか赤ちゃん転生とは。転生方法ぐらい説明しろよ、あの堕落天使。
幸いというか、記憶を所持したままバブバブコースは避けれた。
なんてったって今記憶が戻ったんだからな。
ん? 今世の記憶? 思い出したくはないな。
さて、と。
記憶が戻ったことは良いが、だからといって特にすることが無い。
書斎にでも行って本でも読ませてもらうか。
アルベール準男爵家は小さな領地を所持する貴族だ。
親父....この呼び方はやめたがいいな。お父さん....パパ....いいや、無難に父で行こう。
騎士の一人だった父がちょっとした功績をあげたことが切っ掛けで小さな領地と爵位を授かったそうだ。
貴族と言っても爵位は下から二番目。
継承権の無い準男爵だ。
それでも金には困っていない、領民には愛されている、恵まれた環境だ。
とまぁ、貴族とだけあって希少な紙を使う本が並ぶ本棚があったりする。
書斎に並ぶ本を数冊取り出す。
それは古い、子供向けの魔法の教科書だった。
おそらく父が幼い頃に使っていたものだろう。
俺は表紙を開き、ページを捲っていく。
ちなみに赤ちゃん転生の際に記憶を失くしたからだろうか、この世界の言語や文字はだいたい理解出来るのだ。
今は前世の言語が少し混じっているから整理しないとな。
ん、魔法適正....か。
どうやら該当する魔法適正の属性によって、その個人が得意とする魔法が変わるようだ。
強化系。
主に強度、威力の上昇、自身の身体能力の底上げをする魔法が得意。
付与系と似ているが、効果範囲が自身を中心とした狭い範囲だけ。
放出系。
主に魔力を様々なエネルギーに変換、放出する魔法が得意。
アニメなどで見る魔力弾などが該当する。
付与系。
主に仲間への支援魔法が得意。
味方には強化から回復、敵には呪いなどの状態以上を引き起こす。
強化系とは違い、強化以外のレパートリーが豊富であり、範囲が広い。1度の強化は強化系が勝る。
干渉系。
主に、自分の精神を介して干渉する魔法が使える。
干渉する対象は様々であり、有名所は精神干渉、空間干渉、物質干渉など。
上級者は
空間干渉を行い空間移動魔法を使う者。
己の精神を手放し、憑依魔法を行う者。
などの非常に難易度の高いものを使う者もいる。
干渉魔法は、干渉系だからといって誰にでも使える魔法ではなく、相当の訓練が必要な特殊型。
魔法適正無し。
そのままの意味。
魔力を所持しても、それを魔法の力に変換できないもの。
なるほど。
まるでゲームの職業みたいだな。
物理、魔法、付与、特殊の四つ。
俺だったらガチガチの....ヒーラーだったなぁ。
......これからはガチガチの強化系でアタッカーをしてみたいものだ....って別に戦わなくてもいいのか。
他にも[初級魔法を覚える前に!! ]とか、[中級編の基本のお浚い!!] とかあるが、まぁ自分の属性がわかっていない今、それを見たところで意味が無い。
魔法を使ってみたい、派手な魔法で敵を蹴散らしてみたい、などの欲求を押さえ込んで本を閉じようとしたところで気になる一文が見えた。
[人類の魔力衰退について....]
[呪われた力、汚らわしい#異能__スキル__#について....]
魔力の衰退?
呪われた力?
スキル....確か詫び特典で俺が選んだやつだよな。
そういえばまだ俺の力がどんなものなのか知らない。
まだ覚醒してないだけか?
呪われた力とは......。それに魔力衰退ってどういう意味......
あークソ、掠れて文字がよく読めない。
俺が文の続きを読もうと、必死に顔を本に近づけていると書斎の扉が開く音が聞こえた。
「ヘル兄様、ここにいたのですか」
そこには俺とは違う、金色の髪を背中に流した少女がいた。
彼女は俺の双子の妹、アンリエット=アルベール。
兄妹の中で一番末っ子であり、しっかりもの。正義感の強い少女だ。
ただ最近そのしっかりの部分がまた違うしっかりていうか....
大人のしっかりなんだよな。
前は良い子と言う意味合いだったはずだけど、今はてきぱきとした感じだ。
「もうすぐお食事の時間....、あれ? ヘル兄様。どうしたんですか、急に本なんて読み出して」
と、整った顔を不思議そうにする。
しまったな。今世の俺は本とかあまり読まないやつだったけか。
今は前世の人格が強いから平然と読んでいたが....
「魔法がどんなのか少し気になってねッ。ご飯? 俺も行くよ」
そう返事するとかますます疑問が満ちた顔になる。
「俺....? 兄様の一人称は僕だったはずですが....」
十三歳の癖によく平然と一人称とか使えるな。俺は高校まで使わなかったぞ。
てかすんごい凡ミスッ。
「い、いやははは....さっきまで読んでた主人公に感情移入しすぎたかなぁ。ははは....」
誤魔化せるか....?
アンリはまだ腑に落ちなさそうにしていたが、食事前ということもあってか、引いてくれた。
「読書は感心します。ですが食事にはちゃんと参加しましょう」
そう言うと俺が出した本を手に取り、一緒に本をなおしてくれた。
「......食事の準備は整ってます。急がないと冷めてしまいますよ」
そう言うと、俺の手を引き、部屋の外へ。
「....の記憶が....たのだと....ら....私は....」
アンリが何か呟いたが、俺の耳は聞き取れなかった。
....まぁ気にしなくてもいいだろう。
大人のようにしっかりとした彼女だ。先のことでも考えているのだろう。
俺はこれからの食事のことを考え、彼女に手を引かれるまま廊下を歩く。
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