異世界へ詫び転生した俺の学園生活〜スキル【絶対悪】で盗ったり覗いたり闘ったりします〜

劇薬

第1話 万引き未遂で転生。

 天使様が頬に手を当て、それはそれは残念そうに言いました。


御子柴臣みこしば おみ様。誠に残念ですが、あなたの人生は終りを告げました」


 一人の少年はそれはそれは面倒そうに言いました。


「魔王討伐とかの流れはいいんで、転生させてください」


 ....

 ......

 ........


「......さぁ勇者よッ。魔王討伐を望む貴方に力を貸し与えましょうッ。伝説の剣ッ、竜殺しの魔法ッ。どれも貴方の力になるこ....」


「無視すんなッ!!」


 ........

 ..........

 ............


 天使様がとても億劫そうに椅子に掛け、足を放り出しながら言いました。


「じゃあどうしたら魔王討伐してくれるんですか?」


 こいつ....さては天使じゃねぇな。見た目だけだろ、これが天使なら神を疑うね。


「その前にまず、状況を整理させてくれ....」








 俺の名前は御子柴臣。十七歳。

 最後の記憶は....



 この世は腐っている。正しい人が損をして、間違った人が得をする。


 俺だってそうだ。

 今までは正しい人間であろうとしてきた。

 将来なりたい職業は警察官。多くの人を守るのが夢だった。

 一日一善。ボランティア活動だって参加していた。


 善行を重ねれば俺も、皆もきっと救われる。

 そう密かに憧れを抱いていた親父にも言われて育った。


 だけどそんなのはまやかしだった。

 憧れた親父は、騙され、奪われ、罵倒され、周りの人々から下げずまれた。


 財産は奪われ、母は逃げ、じいちゃん達からも軽蔑された親父。

 それは、親父が良くしていた友人のせいでだ。


 ああはなりたくない。

 損をして、騙され、奪われる。そんなのは真平ごめんだ。


 だから俺は変わる。そんな役回りをするぐらいなら 、俺は間違った人間に堕ちてやる。

 より得をする側に、騙す側に、奪う側になってやる。


 そう決意し、俺は変わるべく、最初の悪行を行おうとしたその時....


「コンビニにトラックが突っ込み、で死去。いやぁ残念な死に際です」


「うるさい、人の回想にちゃちゃを入れないでください」


「いやしかし、あのトラックドライバーには感謝するべきですよ。なんたって未遂ですんだのはあの方のおかg



 小休止。



「そんな訳であなたは死んでしまったのです。だからさぁッ。魔王討伐の旅に出ようではありませんかッ」


 いやいやいや。ふざけんなよ。


「何が、だからだよ。やだよそんな危なっかしいこと」


 そう俺言い放つと、天使(仮)はとても不思議そうに、首を傾げる。


「あなたぐらいの世代の男の子はこういう展開がお好みだったと記憶してるのですが」


 そんなこと言われてもなぁ。

 自分の命が大事だし、前世のように面倒事に首を突っ込むつもりはもう無い。


「別に皆が皆、そういうのが好きって訳でもないだろ?」


 俺がそう言うと 、これまた不思議そうにしながら何かを読み上げる。


「ええーと....名前〈御子柴臣〉。人助けやボランティアを積極的に行う。趣味はアニメの視聴や漫画や小説の読書。好みは異世界転生物の傾向にある....そうですが?」


 勝手にプライバシーを覗くな。


「確かにその通りだけどな、自分が命を掛けて戦うとなれば話は別だろ。可愛い美少女に会いたいとか、魔法を使ってみたいはあるけどね」


 そう説明すると天使(仮)は納得したのか、輝くような笑顔。


「なるほどッ。要するに御子柴様は所謂チキン、という小心者なのですねッ」


「違うッ、そうじゃないッ!!」


 なるほど確かに。

 異世界転生、転移ものの多くの主人公達は果敢に挑む者が多いだろう。

 けどな


「俺はもう面倒事は引き受けない。それに二次世界と三次世界を一緒にすn


「まぁ魔王はとうの昔に討伐されたんですけどね♪」


「はぁッ!?(威圧)」



 またまた小休止。



 上がった息を整えて、天使(偽)に向き直る。


「とりあえず確認する。俺は元の世界には帰れないのか?」


 そう聞くと天使(偽)は頷く。


「はい。流石に無理ですねぇ。そもそも転生なんてさせること事態が本来してはいけない事なんですよね」


 本来しては行けないこと?

 俺は例外なのか?

 俺が新たな勇者だからか?


 しかし、魔王は既に倒されたと言っていたな。新たな脅威が現れたとかか?


 ....本来転生はさせてもらえない。

 戦えば死ぬことだってある。が、転生しなければこのまま本当に召されちまう。


 覚悟を決めるしかないか。


「なぁ。どういう事情で俺を転生させることになったんだ? さっきは断ったが....」


「天使達が遊んでたら仕事が溜まって、溜まったそれを一気に消化しようとしたら....ね♪」


 ....ね♪、とは?


「私達天使にも色々いましてですねー、私達は生物の死を統べる神、死神の使い。死神専属の天使なんですよ」



 天使談。


 神は滅びました。だから残された天使が仕事を代わりにしています。

 PS.ちなみに神を滅ぼしたのは例の魔王です♪



「殺める対象はあのトラックドライバーの方だけだったんですが....。いやぁ、すみません。でもですね、絶対の存在の神と違って私達は人と変わらないんですよ。だからたまにのミスぐらい許して貰っても....」


「アホか....、もう許す許さないの話じゃねぇ....」


 誰だよさっきトラックドライバーに感謝するべきだとか言ったの。

 もう怒る気力もわかねぇ。


「じゃぁなんだ。結論を聞くと、異世界ならいいんだな?」


 その死神の使い(正式)は悪びれもせず、こくこく頷く。


「はい。いわゆる詫びです。詫び転生です。でようやくあなたの転生する世界の説明です。やっとここまで来ましたよ」


 誰のせいでこうなったと思ってるんだ。


「まずその異世界では魔法、スキルが存在します。以上です」


「おい待て、短すぎるだろ。ちゃんと説n」


「時間が押してるんですよ。チキン一人に構ってられません」


 時間が押してる? 俺以外の奴も同じ目に会ってるのか。そりゃ災難だな、お互いに。


「テンポ良く進めますね。私達のお詫びはあなたを異世界に転生させる。ですがそれだけでは流石に申し訳ない....と私の姉が言うので追加ボーナスです」


 お前じゃないのかよ。


 死神の使いが指を一振りすると、俺の目の前にディスプレイと似た、半透明の画面が現れる。

 そこには様々な剣や杖などが映っている。


「その中から1つ、譲ります。後五分で決めてもらえると嬉しいです」


 と、腕時計を叩くジェスチャー。もう無視しよう。



 魔術付与された剣や槍、魔法銃なんかもあるな....。へぇ、殲滅魔法とかもある。


 ....

 ......

 ........


 あれ、この異能スキルってヤツ。何も書かれてないぞ。


「ああ、スキルですか? やめたがいいですよ。

 スキルは数千人に一人得られる特殊魔法。

 それは転生後にスキルを確実に得る特典です。そこだけ聞けば凄そうですが、得られる力はランダムで変更不可。

 めちゃくちゃ強いのから、めっちゃくちゃ弱いものまであるので、運が必要ですよ」


「よし、これに決めた」


「ですから確実性のある....へ?」


 お、死神の使いが呆けた顔したぞ。


「剣とか持っても扱いきれないし、殲滅魔法使えても正直使う場面ねぇだろ。魔法銃と悩んだけどな、スキルって物じゃないしかさばらないだろ」


 そう言うと、今までの作られたような笑顔とは違う、心から可笑しそうにくすくす笑う天使がそこにいた。


「今まで何人か勇者を転生させてきましたが....そんな理由で伝説の力を放り出す人は初めて見ましたよ」


 ひとしきり笑い終えると、天使は再び指を振るい、俺の足元に魔法陣を展開した。


「では、本当に時間が無いので転生させていただきます。心の準備は確認しなくてもいいですね、よし、行きましょう」


「最初から最後までこれかよ」


 俺が呆れて、再び死神の使いに戻った天使を見やる。


 天使は目を瞑り、集中。

 俺の体を徐々に光の粒子か囲み、光度を上げる。


異世界、新しい人生か。

 今度の人生は、自分の為に生きよう。


 死ぬ前みたいに万引きのような犯罪は犯さない。


 だけど、人助けももうしない、それが自分の利益にならない限り。

 そして、自分の利益の為なら、人の事を考える事をやめよう。


 そう、俺は悪堕ちするんだッ!!


 ....あれ、悪堕ちってこの程度の事を言うのか?


 そんなこんな考えているうちに粒子の光度はどんどん増していく。


 そして何も見えなくなった俺は天使の言葉を聞く。


「それでは、良い人生を」







 ふぅ、やっと行きました。


 色々とうるさい少年でしたねー。


 それにおかしな子で、面白かったです。


 さぁ、さぁ。残り十人ですかね。


 早く仕事を終わらせて、テレビでも見ましょう。


 あの世界は面白いものばかり作ってて楽しいですからね。


 ......そういえばスキルについて忘れていたことがあった気が....まぁ「時は既にお寿司」と言いますしね。


 あ、お寿司食べたい。

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