第15話 急転直下の襲撃!

「クローディア、あの二人が憎くないの?

 あなた、あの二人に時折、おもちゃにされてるんでしょ」


 カタリナは周りに人が居ないのを確認して少し声を落として尋ねた。その瞬間、クローディアの顔に珍しく動揺の色が浮かんだ事にカタリナは気が付いた。


「いえ、あれは、静様がああ言ってるだけで、

 実際はその様ないかがわしい事をされてる訳じゃありませんから……」


 クローディは少し取り繕う様な口調でそう言い訳すると、ぎこちない笑みを浮かべた。


「まったく、あなたって人はどうしてあの人そこまで庇うのやら」


「いえ、庇っている訳では……」


 カタリナはクローディアの言葉にそう言って少し呆れ顔になると、クローディアはそう言って言葉を濁して少し困った様な顔になった。


「その事は今は良いわ。

 それと今はあの人はあのまま放って置きましょう。

 下手にここに居る人たちと関わらせない方が良いでしょう」


「静様も、この様な場所は苦手でいらっしゃるでしょうしね」


 カタリナが皮肉を込めてそう言うと、クローディアはまったく違う意味で微笑んで頷いた。そんなクローディアを見てカタリナは諦めた様な笑みをその口元に浮かべた。



 やがてまた、カタリナがクローディアと二人だけで居るのを見つけた参加者達が少しづつ彼女の周りに戻って来た。


 そして男たちがカタリナをダンスに誘う。中にはカタリナではなく、いくら上質の生地で出来た特別製とは言えメイド服を着た、さらに言えば彼より一回り近く年上のクローディアをダンスに誘う者も結構居た。


「私はただの使用人ですから……」


「その方々はあなたと踊りたいのよ。

 私の事は良いから踊ってあげなさいな」


 少し困った表情を浮かべて男達の誘いを断ろうとするクローディアに、ダンスから戻ったカタリナが笑いながら言った。


「私はこんなおばさんですよ。

 もっと若くて綺麗な方がたくさんいらっしゃるのに……」


 それでも二の足を踏んでいるクローディアに、カタリナがその肩を押しダンスフロアーに押し出しながら言う。


「男女の間に歳なんて関係ないわ。

 それにあなたはここでも十二分に綺麗な方よ!」


 背中を押されてふらりとフロアーに出てしまったクローディアを、彼女を誘った若い男はすかさす腰に手を回し片手を取りダンスのホールドに持ち込んだ。


「クローディアさん、どうか僕と一曲……」


「こんなおばさんで良ければ……」


 男がそう言うとクローディアもあきらめ顔でそう言って踊り始めた。


 さすが宮廷付きのメイド長であるクローディア。メイド姿とは言え、周りで踊る上流階級の若い女達よりもそのダンスは上手だった。先ほどのカタリナペアと同じくらいに彼女のペアはその場に居た者たちの視線を集めていた。



「おい、マックス、良いのか?

 クローディアがあの男に寝取られるぞ。

 ここは良いからお前は今すぐ奪い返しに行っても良いんだぞ」


 相変わらずパーティー会場の賑わいから外れてマックスと二人だけでベランダに居た静が笑いながらそう言ってウイスキーの入ったグラスに口を付けた。


「まったく、静様はこんな時でも本当に……」


 マックスもグラスを傾けながらそう言って少しぎこちない笑いを浮かべた。そして、ちらりと腕時計に目を遣ってから真剣な表情になって小さく呟いた。


「静様、そろそろではないでしょうか?」


「ああ、どうやらそうみたいだな……」


 静の方は相変わらずその口元に笑みを湛えながら何食わぬ顔でそう答えた。



 その時、突然、パーティー会場の明かりが消えた。


 ダンスを踊る者たちの為に生演奏をしていた楽団の音楽が途切れ、一瞬静まり返った会場に人々のざわめきがさざ波の様に広がる。


 そして、すぐさま、思いもよらぬ怒号が上がった。


「全員、その場に座れ!

 抵抗する者は躊躇なく殺す!」


 その一呼吸の後、まるで音圧を上げたミシンの様な音が鳴り響いた。


 と同時に再びフロアーに電気が灯った。


 そこには今まで笑顔でパーティーの参加者に給仕をしていたボーイやウエイトレスの大半、人数して十人ほどが小型のサブマシンガンを持って立っていた。


 そして、それ以外のパーティー参加者、そして残ったボーイやウエイトレスがフロアーの床に座り込んでいた。そのほとんどは命令に従ったのではなく、突然の暗闇と銃声に腰を抜かしてその場にへたり込んで居たと言うのが正しかった。


 その中にあってカタリナはクローディアにしっかりとその身を抱えられるように立っていた。クローディアはさすがに王宮のメイド長だけあってこの緊急時おいてもパニックになる事もなく、すぐに主であるカタリナのを身を守る事を第一に行動していた。しかしながら、所詮はメイド、カタリナをその身で守る事は出来てもそれ以上は何も出来ないでいた。


 母が子を守る様にしっかりとクリーディアに抱かれながらも、その二人をボーイ姿の男とウエイトレスの女がそれぞれ左右からしっかりと確保されていた。しかも、手に持ったサブマシンガンの銃口はカタリナとクローディアのこめかみに押し付けていた。


「メイド、それに姫様、動くなよ。

 少しでも変な動きをすればどちらかの脳みそが吹き飛ぶぞ」


 そして二人の前に立ったエレベーター前でカタリナ達を出迎えたあの責任者の男がさっきほどのへりくだった態度とは打って変わった高飛車な態度で二人に低い声でこう告げた。


 カタリナとクローディアは黙って頷いた。



 その時、二人の耳に聞き慣れた声が響いた。 


「何だ、何だ、この騒ぎは!

 どこの馬鹿が悪ふざけをしてるんだ!」


 二人が声のする方を向くとあの静が、この緊迫した状況下でもまったく物怖じすることなくいつもの悪態をつく様な態度で声を上げながらこちらへのしのしと歩いて来ていた。もちろん、マックスもいつもの様に静の一歩後ろに従っている。


 床に座り込むパーティー参加者が怯えながら上目遣いにその静とマックスを見ている。


 そして、彼らを完全に自分の支配下に置き制圧しているはずの元ボーイやウエイトレス達すら、何も出来ずに唖然とした表情で目の前を歩き過ぎる二人を見送っていた。

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