第27話 世界の王

 熱狂が冷め始めると、名も知らぬ元国王たちは俺の呼称について話し合い始めた。


「全部の国の王になるんだったらなんて呼べばいいんだ?」

「人の国全ての王なんだから……人王とか?」

「おっ、いいんじゃないか、人王。ネーミングセンスあるな」

「でもよ、シュウ様は魔王でもあるんだろ?」

「じゃあ世界の王で世界王ってのはどうよ」

「お前……天才か! 世界王、いいじゃないか!」

「シュウ様は世界王だ! シュウ様、ばんざーい! 世界王ばんざーい!」

「ばんざーい!」


 全く、勝手に盛り上がってどんどん決めやがって……。ともかく俺は、世界王になったらしい。これから大変になりそうだ。


「おい……ちょいと待ってくれ」


 そう口を挟んできたのは、ロメリアの賢者であるイシューだった。その後ろには何人かの賢者を従えている。


「納得いかねえよ。俺たちのほうがそいつより優れた賢者のはずだ」

「そうだそうだー!」


 なるほど……。俺が世界王になるのが気に食わないってことか。


「おまえら、生意気だぞ! シュウ様より優れた人間など存在しないのだ!」

「そうだ、身の程をわきまえろ!」


 元国王たちが彼らに罵倒を飛ばす。しかし俺は冷静に彼らを見ていた。


「じゃあお前らは、どうすれば俺を認めるんだ?」

「なっ……!? シュウ様!? こんな屑どもの言葉、聞く必要は――」

「いや、いいんだ。彼らの言い分も一理ある」

「な、なんて心が広いんだ……!」

「まさに天使!」


 イシューたちはもてはやされている俺を睨みつけていった。


「俺たちと一人ずつ知恵比べだ。勝った方が世界王になれる……名付けて、『世界王トーナメント』だ!」

「ほぅ……」

「受けるよな、シュウぅぅ……!」

「ああ、もちろん受けるさ」


 こうして急きょ、世界王トーナメントが開かれることになった。








「ルールを説明してくれ」


 俺はイシューにそう要求する。イシューは「説明してやろう」と一歩前に出た。


「トーナメントといっても、トーナメント制じゃない。お前よりも優れた賢者である俺たち4人が一度ずつお前と知恵で勝負する。お前に勝ったやつが世界王になれるってわけだ」

「なら俺は4回勝てばいいだけか?」

「まあ、勝てれば、の話だがな。ハハハハハッ!」

「私は反対です。シュウ様に不利すぎます!」


 ミリアが口を挟んでくれた。俺のことを心配してくれているようだ。しかし、この条件でなんの問題もない。

 俺は感謝しながら、ミリアを諭す。


「ミリア。いくら不利でも、俺が負けると思うか?」


 ミリアは盲点だった、という顔をした。


「ハッ! 全く思いません!」

「そういうことだ」


 確かに条件だけ見れば馬鹿みたいに俺に不利である。しかし戦うのは俺なのだ。世界王である俺が負けるわけがないのである。


「交渉成立……だな」

「けっ、あとでほえ面かくのを楽しみにしてるぜ」

「こっちのセリフだ」


 俺とイシューはバチバチを火花を散らしあった。







「まず最初の勝負だ。誰がやるんだ?」

「僕が行くブモ」


 イシューたちの方から一歩前に出てきたのは、太った男だった。


「ミドレアの賢者、フトリシアだブモ」

「そうか、俺は集だ」

「勝負はずばり、『噛んだ方が負けゲーム』だブモー!」


 名前でゲーム内容がほとんどわかるな。


「……ルールは?」

「相手に言わせたい言葉を指定して、それを噛んだ方が負けブモ。僕はこのゲーム10回やって4回しか負けたことないブモよ」

「一発勝負でいいんだな?」

「いいブモ。まずはこっちが先攻ブモ。『ドレミファソラシド』言えるもんなら言ってみるブモ!」


 それを聞いた瞬間、俺は勝ちを確信した。

 だが、まずは焦らずに相手のお題をクリアする。


「ドレミファソラシド」

「クソーブモ!」

「次は俺の番だな『蛙ぴょこぴょこみぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ』これを言ってみろ」


 この難しさ、俺以外に一発で言うのは無理だろう。


「なっ……!? や、やってやるブモー! きゃえる……あー、間違えたブモー!」


 案の定フトリシアは噛んだ。これで第一戦は俺の勝利である。








「ふふふふふ……。次は俺様がいかせてもらう」


 そう言って出てきたのは赤いマントを羽織った男だった。


「俺様はアカタナの賢者、アーア。貴様と戦ってやることを誇りに思うがいい」

「そういうのいいんで、さっさと内容教えろ」

「俺様との勝負は『しりとり』だ!」

「ああ、しりとりな」


 面倒だな、長引きそうだ。


「賢者たる者、知識がなければならんのだよ。その点俺様は凄い知識量だからな。いくぞ、しりとり!」

「りんご」

「ごま!」


 数分たったところで、俺は戦略を転換する。ただ闇雲に言葉をいうのではなく、最後が「る」で終わる言葉で攻めることにしたのだ。

 最初は余裕そうな顔をしていたアーアもどんどんと顔を曇らせて行った。


「くっ……類義語!」

「ゴール」

「す、凄いです! まさかしりとりにこんな戦い方があったなんて!」

「それをこの短時間でみつけるとは、大したものだ……!」


 観客が俺を囃し立てる中、アーアは頭をかきむしって悩み続ける。

 そしてもう時間切れになる、というところで、冷や汗に塗れたアーアの顔が輝きを取り戻した。


「る、る……ルーズボール! ふふふふふふふ! どうだぁ、逆転したぞぉ!」

「っ……! しゅ、シュウ様、頑張ってください!」

「今まで攻めてきた策が一転シュウ君に襲い掛かるぞ! これはいくらシュウ君と言えども……いや! シュウ君のあの顔を見てみろ。あれは、なにか策がある眼だ!」


 ミリアとギルバートの解説を聞く余裕さえ、今の俺にはある。

 そして俺はアーアを地獄へと落とす言葉を口にするのだ。


「ルール」

「ぐっはあああぁぁぁ!」


 アーアは体中の穴と言う穴から血を出して倒れた。これで俺の勝ちである。残りはあと2人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る