第26話 新国王爆誕
それから3日間の馬車旅を経て、俺とミリアは国際会議の開催地へと到着した。
「疲れたな」
「はい……おしりが痛いです」
ミリアが涙目で自分のお尻をなでる。
馬車の椅子のシートが硬いせいで、確かに痛い。
俺も同じように痛みを紛らわせながら、会場を確認する。
まるで運動会でも開催できるくらいの巨大な会場である。
「随分立派な会場だな」
「ええ、このロメリアと言う国は世界で一番巨大な国ですからね」
なるほどな。
「ちなみにイスランディアはどのくらいの地位なんだ?」
「断トツびりです……。私が王になってから少しは巻き返してるんですが……」
前の王があんだけのポンコツだったからな。あの時代の負債は大きいということか。
前王のおかげで、ミリアは足取り重く会場に入ることとなった。ミリアも頑張ってるんだがなぁ。
会場の中は外とは隔絶された空間だった。廊下までもが厳かな雰囲気に包まれている。
俺とミリアは無言で部屋までの道を歩いた。
「……ここか」
「そう、みたいですね」
金のドアノブの扉の前で、ミリアは一瞬立ち止まる。しかし、意を決したように扉をあけ放った。
「やあ、よく来たね。噂はかねがね聞いているよ」
その場で一番の大男が顔に似合わぬなごやかな表情で俺たちを出迎えた。
だが、俺はその男の雰囲気に、前魔王に似たものを感じ取る。おそらくこの大男がロメリアの王で間違いないだろう。
「ど、どうも。本日はよろしくお願いいたします」
ミリアが震える声で挨拶をし、俺とミリアは席に着いた。
席に着いた俺は周りの人間を観察する。もう俺たち以外は全員到着していたようだ。最後と言うのは褒められたことではないが、俺たちは不慮の落石事故に巻き込まれたし、遅刻はしていないから大丈夫なはずだ。
「さて……では、全員そろったことだし、始めるとするか」
大男のその言葉で、国際会議は開始された。
「この1年で顔ぶれも変わったことだし、まずは自己紹介から始めようかね。私はギルバート。ロメリアの国王だ。よろしく頼むよ」
ギルバートは屈強というイメージがぴったり当てはまる。赤黒い肌も、そのイメージに一役買っていた。
続いて、ロメリアの賢者が自己紹介をする。そいつは華奢な男だった。顔を覆うようなマスクに身を包んでいるせいで、目元以外はほとんどうかがい知れない。唯一見える目元は、切れ長の目で、冷たい印象を受けた。
「俺はイシュー。ロメリアの賢者だ」
「すまんな、イシューはあまり多くを語りたがらんのだ。その分成果で語っているから優秀だがな」
その後も自己紹介は続いたが、取るに足らない羽虫のようなやつばかりだったので覚えるには至らない。
そして俺たちの番になった。
「私はミリアと申します。イスランディアの国王です。この度は遅れてしまい申し訳ございませんでした!」
ミリアが頭を下げると、周りから「ほぅ」という感嘆の声が聞こえる。前王と同一視していた輩が、どうやらそうではないとようやく気が付いたようだ。
「よい、よい。別に時間に遅れたわけではない、単に一番遅かっただけだ。誰かは一番遅くなるのだから、謝るには至らんよ」
ギルバートがそういうと、他の国王もそれに追随した。
「それに前王の時は参加もしなかったしな。それに比べりゃ全然いいよ」
「違いないな」
「も、申し訳ございません……」
ミリアが前王の代わりに謝る。
……というか、国王なのに会議すっぽかすって頭悪すぎだろ……。
「さて、最後だな」
ギルバートは俺を品定めするような眼だ。いや、見渡してみると、イシュー以下全員が俺を値踏みしていた。
「俺は集だ。イスランディアの賢者をしている。……以上」
俺は手短に自己紹介を終えた。
どうやらそのあとはフリートークのようで、各自が好き勝手に話し始めた。
そんな中、大国ロメリアのギルバートが、ミリアに話しかけてくる。
「ミリア嬢。そなたの国は最近右肩上がりの勢いではないか。長年積み重なった負の遺産もあるだろうに、大したものであるな」
「私のような若輩者を褒めて頂き光栄です」
「私は嘘はつかん主義でな。実際よくやっている」
「ですが、私は近く国王を辞することにいたしました」
さきほどまで和やかに笑っていたギルバートの顔が、ミリアの一言で一気に怪訝そうな表情へと変わる。
「……なぜか、理由は聞かせてもらえるのかな」
「はい。私が国王を辞する理由、それは、私よりももっと国王にふさわしい人がいるからです。それはシュウ様です」
会場のすべての視線が、一転俺へと注がれる。フリートークにもかかわらず、最早口を開いているのはギルバートとミリアだけだった。
ちなみに俺は馬車の中でミリアに前もって聞かされていたので驚きはない。
「シュウ君といったかな。……確かに噂は私の国にも届いているよ。天才やら鬼才やら言われているらしいな」
その言葉に続いて、各国の賢者たちが一斉に話し出す。
「我々人類が悩んでいた食糧問題をたった一週間で解決したとか言われてますよね」
「噂には尾ひれがつきものだとはいえ、随分とたちの悪い冗談だがな」
「我々が長年解決できなかった問題を、一週間とはたしかに誇張しすぎだな」
「いえ、シュウ様は食糧問題を1日で解決いたしました」
ミリアが正しい情報を伝える。
会場の賢者たちは半ば狂乱状態に陥った。
「なっ……!?」
「そ、そんなことが!?」
「それだけではございません。二足歩行、口での食事……これらも召喚から24時間以内に発見なさいました。シュウ様とはそれだけの才の持ち主なのです」
ミリアは淡々と、俺の功績を口にする。それを平常心で聞いているのは、ギルバートとイシューだけだった。
残りは阿鼻叫喚の地獄絵図である。会場のそこかしこで悲鳴と歓声が響き渡った。
「……脱帽、だな」
ギルバートが息を吐き出す。その眼に何が映っているのか、俺に窺い知ることはできない。
「だが、王と賢者では役割が異なる。優れた賢者が優れた王になるとは限らん。……まあ、ここまで優れた人材であれば何をさせてもある程度の功績は残しそうだがな」
ギルバートの言うことも最もである。
しかしミリアの口は閉じるところをしらなかった。
「シュウ様の実績はまだあるのです、ギルバートさん。……シュウ様は先日、魔族との意思疎通に成功なさいました。そして現在、シュウ様は魔国の王――すなわち、魔王です」
一瞬の静寂。そしてその後に訪れたのは――驚愕だった。
「ぴええええええええええ!? 魔族と意思疎通!?!?!?」
「人間業じゃない……! まさか……神、なのか!?」
「魔王!? 魔王って……あの魔王!? 嘘だろ!?」
「ばぶぅ、ばぶぅ」
あまりの驚きに幼児退行するものまで現れる中、ギルバートは比較的冷静だった。
「い、今の話は本当なのか?」
「ああ、本当だ。事実、俺は今魔族と同棲している」
「しゅ、シュウ君……どうか、私の国も治めてくれ」
ギルバートがそう言って頭を垂れてくる。
「うちもだ!」
「うちもだ!」
その現象は瞬く間に会場中に伝播し、俺はすべての国王から頭を下げられた。
「はぁ……」
俺はため息をつく。世界中の凄い奴らが集まるここでも、俺より凄い奴はいないのか。やれやれ、俺なんて大したことないんだがなぁ。
俺は頭を下げている国王たちに向かっていった。
「わかった。俺がお前らの国の王になってやるよ」
会場は歓喜の輪に包まれた。
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