第28話 決着

「次は誰だ?」

「やれやれ……そろそろ僕の出番かな」


 そう言って登場したのはロングヘアーの男だった。見ただけでナルシストとわかるその外見は、俺からみてあまりいい印象は持てない。


「僕はブリュンドル。僕のバトルは、『○×ゲーム』さ。僕がする質問の答えを○か×どちらか当ててもらうよ」

「ほぅ……」


 それを聞いた俺は目の前のブリュンドルへの評価を改めた。この条件は自分の優位を最大限に生かしたいいバトル方法である。


「問題は――」

「ああ、問題は言わなくてもいい」

「!? い、今なんて?」

「問題は言わなくてもいい、と言ったんだ。俺レベルになると問題を聞く必要すらなくなる」

「そ、そんなことがあるわけが……!」

「おいおい、ご自慢の顔が歪んできてるぜ?」

「くっ!?」


 ふっ、これで俺が心理的に優位に立つことに成功したな。ここからは俺の独壇場だ。


「質問させてもらうぜ。……答えは○か?」

「シュウ君、どうしたんだ? そんなこと、相手が答えるわけがないだろうに……」

「いえ、きっとなにか考えがあるはずです。私たちには到底思いつかないような、そんな考えが……!」


 俺はブリュンドルの回答を待つ。ブリュンドルは澄ました顔で言った。


「そんなことを僕が教えると思うかい?」

「……ふん、なるほどな」


 いいデータがとれた。続けて質問する。


「答えは×か?」


 ブリュンドルは俺の質問に顔を青くした。冷や汗が全身から吹き出ている。


「さ、さささささささささささあね! でも僕的には違うような気がするけどなぁー。た、たぶ、多分○のような気がするなぁー」

「ほう……もう十分だ」


 俺は僅か2つの質問で確信を得た。


「シュウ様、どうするんでしょうか……? 私にはまったく判断が付きません」

「これは世界でもっとも賢い人間を決める場なのだ。今2人の間では高度な心理戦が繰り広げられているのだろう」


 ミリアとギルバートの解説を聞き、ブリュンドルは強気になった。


「どうですか? 全く答えが分からないでしょう? おとなしく降参を――」

「悪いな。わかっちまったぜ、答えがな!」

「なっ!?」

「俺は答えが知りたくてお前に質問したんじゃない。お前の表情の変化に注目していたのさ」

「なっ、なにぃっ!?」

「○の時はいたって普通だったのに、×の時は大きく動揺した。それはなぜか。×が正解だからだよ。違うか?」

「くっ、くそっ! 正解だっ!」


 まあ俺にかかればこのくらいわけないがな。


「ま、まさか表情から正解を導き出すとは……さすがはシュウ君だ!」

「おい、ブリュンドル。もう少しポーカーフェイスを身に着けるこったな」


 ブリュンドルはあまりの衝撃で頭頂部が禿げた。

 これにて3人目も撃破。残るは――――。


「使えんやつらめ。やはり俺でないと駄目か……」


 イシューだけだ。







 イシューと俺は向かい合う。知の頂点に立つ者同士、すさまじい緊張感が生まれてた。


「それで、内容はどうするんだ?」

「ブリュンドルと同じでいい」

「なるほどな……」


 イシューは顔のほとんどを覆面で隠しているからな……。表情を読み取ることができない。○×ゲームを選ぶとは、いい判断をしてくるじゃないか。


「こりゃあ、本気を出さなきゃなんねえかもな」

「ほぅ……面白い。ではいくぞ、問題――」

「いや、問題は必要ない」


 俺はイシューの言葉を遮った。

 その意味を理解したイシューの顔が驚愕に歪む。


「なっ!? ま、まさかお前……!」

「そう、さっきと同じだよ。俺は質問だけで答えを導いて見せる」


 俺の不敵な笑みに、会場にいる国王たちにどよめきが走った。


「し、信じられない! 相手はあのイシューだぞ!」

「ギルバートさん、どちらが勝つと思いますか?」

「そうだな……やはり、シュウ君かな。イシューも凄いが、彼は想像を常に超えてくるからね」

「ちっ……」


 イシューはギルバートの言葉を聞いて舌打ちを鳴らした。


「はっ」


 俺はそれを見て思わず鼻で笑ってしまう。


「……何がおかしい」

「いや、なるほどなと思ってな」

「要領が掴めないな。何の話だ?」

「俺は今、お前の精神を支配しているのさ」


 俺の言葉にイシューは動揺を隠せない。


「そ、そんなことが――」

「『そんなことがあるわけがない』……だろ?」

「!?!?!? な、なぜそれを……!」

「言っただろ、俺はお前の精神を乗っ取ったって」

「そ、そんなことありえるわけが――」

「しゃべるな」

「むぐっ……!?!?」


 ふっ、急にしゃべれなくなって驚いているようだな。

 慌てているイシューに、俺は静かに質問をする。


「イシュー、お前、自分の好きなところはどこだ?」

「服のセンス……!?!?」


 イシューは自分が素直に答えてしまっているのが信じられないといった様子だ。

 おそらく人に手玉に取られた経験がないのだろう。

 俺はそんなイシューにも容赦なく質問を続ける。


「ほう……なら、悪いところはどこだ?」

「賄賂で買収して賢者になったこと……!?!?」


 おっと、思わぬ暴露がでてきた。

 問答を聞いていたギルバートがイシューを非難する。


「なっ!? お前、国王だった俺を騙していたのか!?」

「うるせえ! 騙される方が悪いんだよ! ……あっ」


 こいつ終わったな。

 俺はイシューを仕留めにかかることにした。


「最後の質問だ。……この○×の答えは、なんだ?」

「○だ……」

「ご苦労」


 俺がぱちりと指を鳴らすと、途端にイシューは口を押える。だが、もう遅い。賄賂を行っていたイシューの牢屋行きは決定事項すでにだろう。


「以上より、この問いの答えは○。これにてQEDだ」

「おい、シュウ! 最後に教えてくれ……俺はなぜすべてを正直に話してしまったんだ……?」


 ふっ、聞きたいというのなら教えてやるか。


「思い込みの力だよ。お前は俺の『お前の精神を支配した』という言葉を信じるあまり、自分から罠にかかりにきたというわけさ」

「ち、ちくしょう……! ……敵わねえ、こんな知力の化け物に敵うわけねえだろうが!」


 イシューは警備の人間に捉えられ、どこかへ連れて行かれた。おそらく死刑だろう。


「おめでとう、シュウ君。晴れて君は正式な世界王となった」

「おめでとうございます、シュウ様!」

「ああ、ありがとな」


 ギルバートとミリアの祝いの言葉に軽く手を上げてこたえる。

 今この時を持って、俺は最も優れた賢者かつすべての国の国王かつ魔王……すなわち「世界王」となったのだった。

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