第18話 生命の神秘ってすごい
オークと戦うことを決めた俺たちは、簡潔に作戦を決めることにした。
「俺が初撃で半数を落とすから、残りを頼む」
「シュウを信用してないわけじゃないけど、そんなこと本当にできるの?」
「まあ見とけ」
俺は魔力を高め、土魔法を発動した。
オークの群れがいる中心が凄い勢いで陥没し、オークたちは土の中に落ちていく。そして這い上がってこないうちに再び土魔法で蓋をした。
「……えぐい魔法ね」
「残りは10匹か。あとは頼んだぞ」
「頼りになるなぁ。僕も頑張ろっと」
ライアンはオークの群れに向かって走り込み、すれ違いざまにオークに噛みついた。
オークの喉元からおびただしい量の血が噴出する。
ライアンはその血を浴びながら噛み千切ったオークの喉を吐き出した。
「ブモモモ!?」
「まず1匹っと。どんどんいくよ」
ライアンのところは心配なさそうだ。戦っているライアンが猟奇的に嗤っているのは見なかったことにして、他の戦況を確認する。
「オークと戦うのって嫌なのよね。こいつら臭いんだもの」
シェリーはと言うと、安全策をとってチクチクと少しずつ攻撃を与えていた。
言動に似合わず意外と堅実派なようだ。討伐スピードは遅いが、反撃を喰らう可能性は皆無だろう。
「どっかーんなのです!」
ウルルは水魔法でオークの腹に穴をあけていた。ウルルの水魔法はもはや防御不能の矛と化している。俺くらいしか止められないだろう。
結局、俺たちは危なげなく30匹のオークを倒すことに成功した。
俺たちは魔物の素材をはぎ取りながら話をする。
そういえば、米以外を食べられることが分かったおかげで魔物の肉にも用途ができて、冒険者は最近ホクホクらしい。まあオークの肉は固くて食えたものではないが。
「思った以上に楽に討伐できたわね」
「やっぱり2人より4人の方が強いね」
「息がそろっていたからなのです。皆のコンビネーションが抜群だったのです」
「そうだな……あ、そうだ、ライアン。お前の戦い方を見ていて気が付いたんだが……」
俺はライアンの戦い方で疑問に思うところがあった。
何か理由があるのなら知りたい。
「うん、なんだい?」
「なんで噛み千切っての攻撃しかしないんだ?」
「僕は魔力が少ないからね。ほいほい魔法を使ったりできないんだ」
「いや、なんで殴ったり蹴ったりしないのかと疑問に思ってな」
「殴る? 蹴る? ……なんだい、それ?」
俺の言葉に、ライアンは疑問の顔を浮かべた。
まさか、殴る蹴るを知らないわけがないだろう。そう思った俺だが、ある可能性に思い至る。
「そうか、四足歩行……!」
彼らはつい最近まで四足歩行だったのだ。四足歩行では殴ることも蹴ることも出来ないだろう。だから歯で攻撃していたのだ。
「ライアン。良く見てろ」
「うん、見てる」
シュッ。俺は空中に木を敵に見立て、殴った。
「っ!?」
ライアンが息をのむ音が聞こえる。
シュッ。続いて、木を蹴ってみる。
「っ!?!?」
「どうだライアン。これが殴る蹴るだ」
「す、すごいや。リーチが段違いだ。それに隙もない。こんな攻撃の方法があったなんて、目から鱗だよ!」
「シュウ、あんた何者なの……? ライアンの戦い方を一度見ただけでこんな斬新な戦い方を思いついたっていうの? 凄すぎるわ……」
「まあ、俺は賢者だからな。このくらいは出来てしまうのさ」
「さすがご主人様なのです!」
そんなこんなで俺たちはオークの元を後にし、盗賊団の元へと進路を変えた。
「これ、本当に凄いね。今まで生きてきて一番の衝撃だよ」
俺と場所を入れ代わり一番後ろを歩いているライアンは、シュッシュッと歩きながら空くうを殴っている。
よっぽどお気に召したようだ。
「にしても、いつも噛み千切ってたら歯が欠けたりしないのか?」
「何言ってるんですか、ご主人様。歯なんて欠けたらまた生えてくるじゃないですか」
……いやいやいや、それはないだろ。
「シュウもおっちょこちょいなところがあるんだね。なんだか安心したよ」
「たしかに。シュウも同じ人間だと初めて思えたわ」
どうやら冗談ではないらしい。まさかこんなところに異世界人との違いがあるとは思わなかった。
おそらく長い間4足歩行だったせいで、地球人と違う方向に進化したのだろう。
生命の神秘を感じた俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます