第13話 事情を聞く話

 ある日。たまの休日ということで、家でゆっくりしていると、玄関の鐘が鳴らされた。

 俺がでるより先にウルルが素早く玄関へと向かう。

 しばらくして、ウルルは戻ってきた。


「誰だった?」

「ご主人様、ミリアのところの兵士さんが来てるのです」


 丁度いいタイミングだな。今日は暇だし、ミリアの家にでも行くか。俺は立ち上がった。




 というわけで、誘いを受けてミリアの家にやってきた。


「わざわざ来てくれてありがとうございます」

「それで、何かあったのか?」

「はい……。実は、食生活を元に戻した方がいいのではないか、という案が浮上してきています」


 ……ん、なんだ? 聞き間違いか?


「元というのは、あの米ジュースみたいなどろどろのやつにってことか?」

「はい、その通りです」


 そんなふざけたことが許されるはずがない。あの食事は食事とは言えないレベルのものだったではないか。

 そう反射的に反論しそうになるが、向かい合うミリアの顔も険しい。……ということは、この案には何か理由があるということか。


「理由を説明してくれないか?」


 ミリアは一瞬ためらった後、重い口を開いた。


「近頃、食後に体調不良になる人々が増えはじめまして……。この季節には毎年起きていることなのですが、王様が『食生活を戻せば解決する!』と仰っているために、大部分の貴族はその意見に追随しているのです。このままでは国令によって今の食生活が禁止されてしまう可能性もあります」


 その王、今すぐに変えた方がいい。毎年起きていることをなぜ今年変えた食生活が原因だと思えるのだろうか。頭にフルーツポンチでも詰まってやがるに違いない。


「ウルルは今の食事の方が好きなのです。元の食事はおいしくないのです……」

「私も同感です。ですが、王様がそう言っていることには……。何かそれを覆すような考えでもあれば話は変わってくるのですが……」


 ウルルとミリアは残念そうに俯いた。特にミリアの落ち込み方はひどい。ミリアは国民思いだから、国民が悲しむ国令を出すのが心苦しいのだろう。


 そんな2人に向けて俺は言った。


「俺に任せとけ」

「お、お任せしてもよろしいんですか?」

「ああ。それに、あの半液体状の米を食わされるのは正直御免被りたいしな。自分の為にも頑張らせてもらうぜ」

「ありがとうございます!」


 こうして、食生活をかけた戦いが始まった。



 まずは情報収集だな。


「ミリア、患者がいるところに案内してくれるか?」

「はい、わかりました」


 俺はミリアに連れられて病院へとやってきた。


 病院と言ってもただ床の上に人が寝転がっているだけの場所だが。


「そういやミリア、癒魔法があるなら病院なんて必要ないんじゃないのか?」

「癒魔法は使い手が少ないですし、消費魔力も多いですから必然的に高額になります。一般の方が払えるような金額ではないので、病院は必要なのです」


 なるほどな……。俺が無料でこの場の患者全員を治療してやろうかとも思ったが、病院関係者と癒魔法の使い手の職を根こそぎ奪ってしまうことになるのでやめておいた。持っている力を常に全力で使ったからと言って、上手くいくとは限らないのだ。


 考え事はそのあたりにして、俺は体調不良の原因を調べ始める。

 まず最初の患者は20代中盤の女性だった。

 女性は俺を見るなり甲高い声を上げた。


「キャー、シュウ様! 本物のシュウ様だわー!」

「……ああ、俺が集だ。話を聞かせてもらうぞ」

「私の話ならいくらでも話しますー!」


 ……なんだかやりにくいぞ。そばで見ているミリアも苦笑いをしている。


「まず、体調が悪くなった原因に心当たりはあるか?」

「特にないです。その日は休みでしたから、食事以外はほとんど何もしていませんし」

「食事は自分で作ったのか?」

「はい、3年ぶりに作ったんですよ。そしたらこんなことになっちゃって……こんなことならいつものように外食しておけばよかったです!」


 その後、いくつか話を聞き、女性への質問を終えた。


「何かわかりましたか?」

「いや、まだ分からん」

「そうですか……。では、次の方を呼んできます」



 次に来たのは30過ぎの男性だった。

 男はミリアを見るなり、野太い声を上げた。


「おお、ミリア様! 本物のミリア様じゃないか!」

「はい、私はミリアです」

「お会いできて光栄です!」


 さすがミリア、一般市民にも人気があるようだ。これが貴族というもののあるべき姿なのだろう。

 ミリアも心なしか嬉しそうである。


 男とミリアは二、三言葉を交わした後、質問に移る。


「まず、体調が悪くなった原因に心当たりはあるか?」

「いや、特にないな。あの日はいつもと同じ一日だったし……違うことって言やあ、食事くらいか」

「食事はいつもとどう違ったんだ?」

「あんたが米以外も食えるって発見して以来色んな物を食ってたんだけどよ、昔液体にした米がでてきたからそれを飲んだんだよ。いやー、ありゃあ駄目だな。1度ちゃんとした米を食べたらもうあのどろどろの米には戻れねえ」


 その話を聞いた俺は、どこかに引っかかりを感じた。だが、その正体がいまだはっきりしない。俺は詳しい話を聞いてみることにした。


「その米はどれぐらい前の米だったかわかるか?」

「そうだな……」


 男はじょりじょりと髭を触る。そして俺の質問に答えた。


「たしか、20年くらい前の米だったはずだぜ」


 その後少し質問をして、男との話を終えた。


 確信を掴んだ俺は病院を出てミリアの家へと帰った。

 今部屋にいるのは俺とウルル、そしてミリアだけだ。


「何かわかったんですか?」

「ミリア、この世界では20年たった米も食べるのか?」


 俺はミリアに質問をした。


「それが米ならば、何年たっていても食べると思いますけど……それが何か?」


 やはり、俺の思った通りだ。続いてもう一つ質問をする。


「この世界の食べ物は腐らないのか?」

「腐る……? すみません、よくわかりません」


 ミリアは申しわけなさそうにしている。


「いや、いいんだ。解決策、見つかったぜ」

「こ、こんなにすぐにですか!? シュウ様以外の方が言っていたら信じられませんよ……」


 ってことは、信じてくれてるってことか。ありがたいことだな。


「少々用事ができた。また明日ここに来る」


 俺はそう言い残しウルルと共に家に帰った。

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