第12話 終焉を告げし者

「今日は初めてのAランク依頼だな」

「そうですね。ご主人様の足を引っ張らないように頑張るのです」


 ウルルはそう言うが、実際に俺の足を引っ張るということは考えにくい。

 水魔法に関しては、俺とほとんど遜色ないレベルにまで達していた。俺と遜色ないということは、この世界のトップレベルを遥かに超えたレベルということだ。


 1属性だけしか使えず、なおかつ未だAランクでありながらも、ウルルはすでにギルドでナンバー2の実力者になっていた。もちろん1番は俺である。


「最近勢いづいている盗賊団を壊滅させる」という依頼を受けた俺とウルルは、山中の人気のないところに来ていた。

 木々の間から微かに小屋が見える。おそらくそこが盗賊団のアジトであろう。


「ここからは静かに近づくぞ」

「はい」


 俺とウルルは息を殺してアジトに近づいた。アジトまでの距離は徐々に縮まっていく。


「よし、ここから行くぞ」


 小屋まで50メートルというところ。これ以上近づくと見張りにばれてしまうというぎりぎりの距離で、俺はウルルを手で制した。そしてウルルに指示を出す。

 ウルルはこくんと頷いた。


 まずはウルルの水魔法が発動する。


「喰らえ、なのです!」


 小屋の頭上に大きな滝が出現し、小屋目掛けて一気に水が流れ落ちる。

 盗賊団の団員たちは、命からがらといった様子で小屋の外に逃げ出した。


「な、なんだってんだ!?」

「見張り! どうなってやがる!」

「そ、外には異常はありません!」

「ならこれはどういうことなんだ!」


 盗賊団はなにやら揉め始めた。


「戦闘の真っ最中に言い争いをするとは……救えない馬鹿だな」


 俺は雷魔法を発動した。

 水に濡れた地面を伝って、雷撃が盗賊団を襲う。


「ぎゃあああああああああっ!」


 盗賊団は残らず黒こげになった。






 盗賊団を縄で縛りあげ、俺とウルルは帰り道を進む。


「思ったより楽勝だったのです」

「そうだな、余裕すぎてむしろ張り合いがない」


 だがこれ以上の刺激を求めようにも、Sランクの依頼なんてのは滅多にない。俺はだんだんとフラストレーションが溜まっていた。


 結局この日の依頼も全く危なげなく終えて、俺はウルルと共にギルドへと向かった。









 ~???~


「全く、本当にこんなやつが天才賢者なのか?」


 俺は疑問に思わざるを得ない。やつが召喚されてからずっと、街中では行動を監視してきたが、やつが強いとは俺にはとても思えなかった。


 俺は影のように生きる、裏の世界の殺し屋である。血塗られた道を歩き続けてきたのがこの俺だった。


 俺はギルドへとやってきたやつを観察する。シュウと呼ばれているこの男は、生活を向上させることには優れているようだが、戦闘面でのセンスは皆無だと俺は感じていた。


「一流の実力を持っているものは、身の危険を素早く察知する能力に秀でているものだ。こいつはそれがまるでない」


 事実、俺が全力で殺気を向けてみてもこの男はピクリともしない。俺の研ぎ澄まされた殺気に気が付いていないのだ。それどころか、あくびまでしている。呆れるほどの能天気さである。


「……終わりだ」


 俺は男の首筋にナイフで切りかかった。








 ~シュウ~


「……おい、大丈夫か?」


 衝撃を感じて振り向くと、黒ずくめの服を着た男が倒れていた。

 男は無様にひっくり返りながらも、驚いた様子で俺を見つめる。


「なっ、馬鹿な! 俺の暗殺術がきかないだと!?」

「気が付かなかったが、今、俺に何かしたのか?」

「ま、まさか……俺を……終焉を告げし者、RYUであるこの俺を全く脅威に思っていないとでもいうのか!?」


 男はギルドの中で大声を張り上げる。その声で、何人かがこちらを見た。

 そして周囲から驚きの声が上がる。


「おい、あいつまさか……終焉を告げし者、RYUじゃないのか?」

「やべえ……終焉を告げし者、RYUだ……」

「終焉を告げし者、RYUがなんでこんなところに……!」

「終焉を告げし者、RYUには勝てない……!」


 どうやら終焉を告げし者、RYUとやらは有名人らしい。


「それで、そのリュウとやらが俺になんの用だ?」

「ちっちっちっ。リュウじゃない、RYUだ」


 RYUは指を振りながら舌を鳴らして、俺の発音を訂正した。

 何だこいつ。イラつく野郎だな。


「そんなことはどうでもいい。お前の用は何だ?」

「お前を殺すのだ、シュウよ。俺の殺し屋としての勘が告げている。お前は将来俺の邪魔になるとな」

「殺す……か。面白い、やってみろよ」


 俺がそういうと、RYUはその場で素早く走り始めた。

 そしてそのまま一直線に俺に突っ込んでくる。


「俺の中に流れる漆黒の黒い血よ……。泣きわめけ!」


 ガィィン。

 振り上げられたRYUのナイフは、俺の皮膚を切り裂くことも出来ずに跳ね返った。


「なっ!?」

「悪いな、俺くらいの魔力量があると普通の攻撃は一切通らねえんだよ」


 俺が事実を伝えると、RYUは顔を真っ青にした。


「どうした? 顔色が悪いぞ」

「は……ははははは。………………負けたよ。俺の負けだ。殺せ」

「いや、殺さんが」

「何故だ!?」


 驚くRYUに俺は理由を教えてやる。


「俺は何もされていないからな」


 それを聞いたRYUはブルッと武者震いのように肩を震わせた。


「な、なんだと……! 俺の暗殺奥義を喰らってなお、何もされていないと言い切るとは……俺の完全敗北だ。次に会うときは、お前にふさわしい実力を付けてくることを約束する」


 RYUが俺に握手を求めてくる。先ほど会ったばかりではあるが、出会った時よりも数段明るい顔になっている、と俺は感じた。

 RYUの握手を断り、俺は告げる。


「いや、お前は普通に牢屋行きだぞ」

「えっ」


 何を驚いてるんだ、こいつは。


「お前人殺しなんだろ。逃がすわけないだろうが」

「そんなぁ……」


 こうして終焉を告げし者、RYUは御用となった。




「全く、なんだったんだあいつは」

「あの終焉を告げし者、RYUをものともしないとは、さすがご主人様です!」

「結局なんなんだよRYUって……」


 釈然としないものはあるものの、少しは気が晴れた俺だった。

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