第11話 Aランク

「よし、準備はいいか? くれぐれも気をつけろよ」

「ご主人様は心配性なのです。ウルルにお任せを、なのです」


 ウルルとの特訓を始めてから1週間後。ウルルはAランクへの昇格試験に挑むことになった。

 不正がないように1人で挑まなければならないというのに、ウルルは随分と余裕そうな表情だ。俺との特訓が心の支えになっているのだろう。

 ちなみにAランクへの昇格試験は、ギルドに所属しているSランク冒険者と戦闘して、認められれば合格となる。


「行ってくるのです!」

「おう、くれぐれも無理はすんなよ」

「はーいなのです」


 ウルルはまるで戦闘前とは思えないような朗らかな表情で、ギルドの奥へと向かっていった。


「ウルル、頑張れよ……」


 俺はギルドに備え付けられた椅子に座って祈る事しかできない。今の俺は気が気ではなかった。


「おい、シュウ!」

「あ?」


 振り返ってみると、俺がSランクになった時にいちゃもんをつけてきた冒険者がいた。


「今日こそ俺の力を認めさせてやるぞ! お前なんかより俺の方がSランクにふさわしいってことをな!」

「うるせえ、殺すぞ」


 今の俺は遊んでいられる気分ではないのだ。俺は男に殺意を向けた。男は腰を抜かして倒れこむ。


「あ、あわわわわ……」


 男はブルブルと体を震わせている。

 ……少しやりすぎたかもしれない。

 仕方ないので、条件をクリアしたら話を聞いてやることにした。


「俺と言葉を交わしたいなら、いますぐこの場で逆立ちしろ」


 俺は手短に条件を伝え、殺気を収める。

 男は立ち上がった。そして、悩むように目をきょろきょろと動かす。


「どうした」

「う、うるせぇ! やるよ、やりゃあいいんだろ!」


 そういうが早いか、男はなぜか逆立ちを始めた。

 一度目は失敗したものの、二度目で成功した男は逆立ちをしたまま誇らしげに俺を見る。


「どうだ、恐れ入ったか! これが俺様の力だぁー!」


 なんだこいつ……。突然逆立ちなんかしやがって、頭がおかしいのだろうか?

 男のあまりにも異常な行動に、俺は思わず身の毛がよだった。


「何とか言えよ、シュウ! さては、俺の力に恐れ――」

「公共の場で突然逆立ちなんかするやつと話すことなど何もない。さっさと帰れ」

「え」


 男はなぜか裏切られたような顔をする。ますます気味が悪い。


「帰れ、と言っているのが聞こえないのか?」

「……チックショー、覚えてやがれ!」


 やれやれ、何だったんだあいつは。





 奇妙な出来事から10分後、ウルルが戻ってきた。俺は素早くウルルに近寄り、結果を尋ねる。


「ふぁー、疲れたのですー」

「ウルル、お疲れ様。……それで、どうだった? 試験の方は」

「ふふーん……ごーかっく、なのです!」


 ウルルは両手でピースして、嬉しそうにはにかんだ。

 俺はほっと胸をなでおろす。


「よかったな」

「文句無しって言われたのです。次はSランクを目指すのです」

「今でも十分ハイペースなんだ。そこまで焦らなくてもいいぞ」


 普通はAランクになるのに最低5年はかかると聞いた。ウルルは俺が教えているとはいえ一週間でAランクだから、とてつもないハイペースである。


「少しでもご主人様に追いつきたいのです! 止まってる暇なんてないのでーす」

「そうか、なら俺は止めないぞ」


 こうしてウルルはAランク冒険者になった。ちなみに俺に次いで史上2番目のスピードらしい。

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