第5話 魔力チート
翌日。俺はウルルに、俺が異世界から来た賢者だということを伝えた。
「ええ!? じゃあ米以外も食べれることも2本足で歩けることも口で物が食べられることも、全部ご主人様が発見したんですか!?」
「ああ、まあな」
「す、すごいですご主人様! ウルルは感激です!」
ウルルはどうやら感激しているようだ。まあ俺の正体を知ったのだから無理もないか。
「ウルル。俺は出かけるが、ウルルはどうする?」
「出かけるんですか? もちろんお供するのです!」
そういうわけで、俺はウルルを引き連れて外へと出た。
「どこへ行くんですか、ご主人様」
ウルルが俺の目を見て尋ねる。身長差の関係上、ウルルは上目遣いだ。クリアブルーの瞳に見つめられると、なんだか涼しげな気分になる。
「今日はギルドに行く。冒険者にでもなろうかと思ってな」
魔物を倒す職業が冒険者で、ギルドは冒険者をまとめる組織のようなものだ。ミリアに以前聞いたところによると、冒険者にはS~Eまでのランクが付けられているらしい。
「っと、ここか」
俺は目の前にそびえる建物を見上げた。見上げると言っても俺の家より小さいんだけどな。
扉を開けて中に入ると、ガラの悪そうな男が俺とウルルを値踏みするように睨みつけてきた。
「ウルル、俺の後ろに隠れてな」
「は、はいっ……」
俺は恐怖で身体が縮こまっているウルルを自分の背中に隠し、カウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ! 本日はいかがいたしましたか?」
カウンターのギルド嬢は、この場の雰囲気に似つかわしくないような見事な営業スマイルを浮かべていた。
俺はギルド嬢に簡潔に要件を伝える。
「冒険者登録をしに来た」
「かしこまりました。お連れの方もご一緒に登録でしょうか?」
「あっ、ウルルも登録するのです」
ウルルは俺の背中からひょこっと頭を出して言った。両手で俺の服の裾をぎゅっと強く掴んでいるあたり、争い事には向かなそうな性格だが……。
「ウルルも登録するのか?」
「ご主人様を一人にするわけにはいきませんから」
うれしいことを言ってくれるぜ。
「それでは、まずはそちらの御嬢さんから。こちらの水晶に手を触れてください。使用可能な魔法の種類と魔力量が表示されます」
ギルド嬢が顔と同じ大きさの水晶を取り出した。
ほう、ミリアの家にあったものより高性能なようだな。
ウルルは恐る恐るといった様子で水晶に手をかざす。すると結果が表示された。
「魔法の種類は水、魔力量は170ですね。魔力量の平均は100ですから、一般人にしては魔力がかなり多い方です。もしかしたら期待の新人さんかもしれませんね」
「ふぇ!? そ、そんなことはないのです! ウルルなんて全然……」
「いや、俺も期待してるよ」
俺がそう援護すると、ウルルは頭から煙を出し始めた。
「どうした、ウルル!」
「ご主人様に優しい言葉をかけられると昇天してしまいます」
……付き合っていく上での距離感が難しいな。
「仲がよろしいんですね。……では、次はシュウ様の番です」
「ああ……ん? どうして俺の名を知ってる?」
「今この国の一番の話題は、歴代の中でも飛びぬけて天才の賢者が召喚されたことですからね。すごい勢いで噂は広まってますよ」
どうやら俺が思っているよりも大ごとになっているようだ。
「……まあいい。さっさと終わらせる」
俺は水晶に手をかざした。すると、ギルド嬢は一瞬で目を大きく開き、そのままの体制で石のように固まった。
「おい、おい!」
「……はっ! し、失礼しました。あまりにも驚きの結果だったもので。測定の結果、シュウ様の魔法の種類は火、水、雷、風、土、癒の全てです」
ミリアの家で前もってそれを知っていた俺はそれを聞いても驚きはない。しかし、周りは違かった。
ギルド嬢の言葉にギルド内にいた冒険者たちはいっせいに沸き立った。
「なんだって!?」
「あり得ねえ!」
「き、きききき聞き間違いに決まってる!」
一体何をそんなに慌ててるんだ。そんなにすごいことなのか?
「ご主人様はやっぱりすごいのです!」
「おお、ありがとな」
俺を褒めるウルルにそう答えながら、俺はギルド嬢の顔を見つめた。
そう、まだ魔力量が知らされていないのだ。
「シュウ様の魔力量は……ひゃ、100億です……」
ギルド嬢の言葉がギルド内に響き渡り、そして、俺の予想に反してギルド内は静寂に包まれた。
なんだ、これはどうやら普通だったようだな。
……ん? でもさっき普通は100って言ってなかったか?
俺がそう思っていると、誰かがぽつりと口を開いた。
「100億……凄すぎるだろ」
その一言が引き金となり、徐々に騒ぎは大きくなっていく。
「神様だって魔力量150億って言われてんだぜ? それとほとんど同等じゃねえか。そもそも人類最高の魔力量は今まで1500だったのに、一気に塗り替えちまった」
「何者だよあいつ」
「さっき聞こえてきたけど、あの人が今国中で噂の賢者様らしいぜ」
「道理で……賢者様ってのは凄えんだなぁ」
なるほどな、驚きが大きすぎて言葉を発せなかったわけか。まあ仕方ない。俺はさすがに偉大すぎるからな。
「思った以上の騒ぎになっちまって悪いな、ウルル。……ウルル?」
横を見るが、ウルルの姿がない。どこに行ったのかと探してみれば、泡を吹いて床に倒れこんでいた。
「おいおい、勘弁してくれよ!」
俺はすぐさまウルルに回復魔法をかけてやる。
意識を取り戻したウルルは頭を小刻みに振りながら、「あわわわわわ」と謎の言葉を発した。
「いきなり倒れて、一体どうしたんだ。驚いたぞ」
「ウルルは驚きすぎて昇天しかかったのです。三途の川が見えました」
それを聞いて俺は思った。ウルルはほっといたら駄目だ。極力目を離さないようにしなければ。
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