うるさい方の新人

 全長16,480メートル、質量834トン。光速戦艦……の試作艦で実験施設の塊アンティキティラ。そこで従業員と話すウルサイ美女ダムキナ・グラ


「これを着て移動してください」


 なんだってぇぇ⁈ ウルサイ美女ダムキナは船外活動用のスーツを渡されて愕然としていた。


「申し訳ない! 博士はまだ契約もされてませんから来客の手順になるんです」


 ワタシゃ……このまま此処でババアになる、のでは? もう半日は区画を移動する度に着る・脱ぐを繰り返していた。次にダムキナを悩ませたのは実験船アンティキティラの広さ。


「ババアじゃ済まないね、ミイラだっ! キエエエェェェ!」


 静寂が耳にしんと痛んだ。少しばかり叫んでも誰も変な目で見たりはしない。はるか遠くに砂粒のように映る人が見えるだけなのだから……。歩道が20メートルなら中央の道は40メートルはあった。


 そして、壁際を歩くダムキナが見上げると限りなく清く澄んだ……これは空ではない。再現したスクリーン。限りなく清く澄んだスクリーン。地面を除き、トンネルの丸い壁と天井すべてにスクリーン。……なんと無駄な!


 中央には物資を運ぶリニア式のリフターが往来し、向かいのスクリーンには海と砂浜。こちら側はどこかの国の田舎道。青い空がふたつの風景を繋げていた。ストレス解消の目的が有るのだろうが、返って目がオカシくなりそうな光景だった。


「多分ここ?」


 少し先に開けた空間があり、小走りで足を踏み入れる――。リフタールームエリアへようこそ、ダムキナ・グラ博士。所長がお待ちです。音声の後、壁へエアロックが開く。目的地に着いた。


 中へ入ると微かな電子音が響き、アンティキティラの大構造を縦横自在に運んでゆく。では、ごゆっくり。壁の一部が透明に透き通って窓になった。


 座ったダムキナは荷物から1枚の紙を取り出して眺める。贈り主はかつての学友、アンティキティラ実証艦内・兵器研究センター最高所長。希少な紙の手紙に愛でも告白するのかとダムキナの胸は高まったが……内容は『生物分野の研究員不足』と『副所長就任の催促』。この時代、紙はひとりの時にしか見ることの許されない貴重品。如何な高貴な者も手頭てずから引っ手繰りたくなるほど。それだけに本気なのが伝わってくる。


 素敵な誘いに違いはないけどね――


 この場合は悪魔の芳札だろう。手紙の送り主はと異名があり陰でそう呼ばれていた。そして学内を取り仕切る冷酷な暴君。かと思えば同期たちからは畏敬を集めた優秀な学生でもある。なによりダムキナの幼馴染で……才能に嫉妬することもあった。主席を競う間柄、彼も私へ嫉妬を抱いたろうか。今となってはどうか。ダムキナにとっては憎いのか親しみが持てるのか、よくわからない間柄だった。


 ダムキナは再び窓へ視線を移す。その外に巨大な構造物。高さ20メートルはある。模様からして、さっき見たDDDデアデビルデストロイヤ―なのだが……? ダムキナは疑うあまり目を擦る。それはとてつもなく恐ろしく、醜かったのだ。


 形が全然違うんじゃない!?――


 ギクゥ……、ダムキナの背筋がうら寒くなった。一切の気配を出さず、入ってきたときから背後に座っている者に気が付いたから。それは、あまりに静かだった。


「来る頃と思って、ここで待っていた」


 手紙の主の名は、暗黒物質タンムズ・フドウだ。


「懐かしいな、幼な馴染 ダムキアンナ

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