ほたるの墓

「ここが最後のコンビニです。日用品など買い忘れありませんか」

言われてから30分たってもまだ着かない。新幹線の駅から1時間半。えらく遠い。夏期講習に呼ばれたのだ。着くと町内を案内してくれる。ダム湖に興奮。深くかかった霧に黒い影。手を振ると返してくる。

「ありゃ先生だよ」

え?ブロッケン現象?日本でも見られるんだ。

「珍しくもないさ。あんなの每日見てるよ」

夜は歓迎の酒宴…ではなかった。飲み屋はおろか旅館さえない。民宿で夕餉のあとに飲み会。

「これ飲んでください」

一升瓶を東京に持ち帰る無粋さはない。先生と英語講師でくみかわした。

「明日からお願いしますね」

真っ暗な夜道を螢が先導する。2人で1部屋、だけど家族で居るようなあたたかさ。


「今日から講習しっかりうけるんだぞ」

うんうん

「村のみなさんがだしてくれたんだ。感謝して励むんだぞ」

うんうん?村の皆さんが講習代払ったの?わしらの宿泊費も?力はいるよね。


「2日間おせわになりました」

「次への種になればいいんですが」

「じゃ新幹線の駅まで」

「いや僕はテツなんで山越えで新潟目指します」


その日は無事に出られた。でも山古志村はいまだ不通だ。

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