七国山病院

 七国山病院。地元民はよく知っている。本当は八国山だ。なぜ1つ失われているのか?思いつき過ぎて困るぐらいだ。

 多摩湖なのに狭山公園にあるたっちゃん池。なぜたっちゃんという名がついたのか、地元民は知っている。喪失の思い。西武王国のこの地、八国山の都内部分は公園として保全されているが、埼玉の所沢部分は松が丘の西武住宅で山が削られている。遊水池に住み着いた狸の家族が寂しげだ。「あん」の秋津もすぐそこだ。ハンセン氏病の全生園もすぐそこ。隔離された地、人々が隔離してきた記憶がある。

 わたしも保生の森という施設に入院していた。97歳の婆ちゃんと友達になれて面白かった。終戦時北朝鮮から逃げてきて帰国するが、病気で隔離され各地を転々として壮絶だった。昔は貸本屋があって気に入った本があったら購入したそうだ。鯛焼き若葉のすぐそばの屋根裏で読みふけっていたそうだ。

「あんたなんか読むものない?」

「北村薫なんてどうですか?」

「知らないけど読んでみる」

なにせ婆ちゃんの店には中村メイコさんがパーマをあてにきたくらいだ。知ってたらその方が驚きだ。

「年もとっているし、返すの忘れたりしますから」

家族の心配に学級文庫ならず施設文庫を作ってもらった。今はどうなっているのかなぁ。そこの施設で時々話題になる。

「また宮崎さん来ているよ」

「あの変な車で?」

「そう」

「あの、宮崎さんってどなた?」

「監督よ」

よく八国山のこの病院の界隈ドライブしているそうです。特徴のある車ですぐ分かるそうです。喪失の心情を分かち合っているのでしょうか?-1。

 違う婆ちゃんが具合が悪くなって隣の新山手病院に運ばれて行きました。食堂には目隠しのカーテンがされていましたが、私にははっきりと声が聞こえた。

「やっとおじいさんが来て良いといってくれたのよ」

監督、猫バスは色々なものを運んでいるんでしょうね。

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