第4話 心で聴く


笑った顔が可愛いその子は、多分男の子だ、髪は長めだけど。


僕の発した一言に対して、何も言わなかった、

その子は静かに両腕をぷらーんと動かした。


「君は日本人じゃないね、どこの国の子なの?」


目の前でしゃがんで、ゆっくりとした口調で、話しかけてみた。


言葉は何も返ってこなかったけど、その代わりに、

今度はたくさんの金平糖を落としたみたいな音がした気がした。


両手で口元を押さえ、ふたつの綺麗な青いガラス玉は隠してしまって、

その子は声も出さずに笑っていた。


「なにをそんなに笑っているの?やっぱり日本語は分からないかな…」


可愛らしくて不思議なこの子と、“なにか”、共有できると思って期待していた。


少しはしゃいだ僕の気持ちが、すーっと静まって、

ストンっと物静かになってしまった。


肩を落とした僕を見て、その子は静かに、ふるふると首を振る。


そして、両手の人差し指で、ふたつの瞳をゆびさした。


その瞳をゆっくり閉じて、しばらくしてまた、僕と目が合った。


「目を閉じろって言ってるの?」


尋ねた途端、その子が一歩、僕に近付いた。

驚いた僕は、後ろに両手、そしてお尻をコンクリートに落とす。

その反動で、とっさに両目を閉じた、とても近くにその子を感じる。


左胸のあたりに、なにかが触れる感触がした、僕は両目をゆっくりひらいた。


やさしく触れていたのは、その子の小さな右手、あたたかい手のひらを感じた。


その手が左胸を離れた瞬間、今まで見ていた景色が全部、どこか違って見えた。


息を吸うのが少し楽に感じたし、


遠くの電線にとまった小鳥があでやかに見えた、


両手とお尻の痛みも思い出した。



「大切な言葉は、心に届くの。」


初めて聞いたその子の声に、散った意識は掻き集められて、ひとつに戻る。


「心で聴くんだよ。」


初めて聞いた笑い声、ふふっというその声とともに、あの音はあのままだった。



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