九章八話

「あと、今この場でもうひとつ見て欲しいものがあります」

そう言って、桃はクリップで綴じられた紙の束を机の上に置いた。B5サイズのコピー用紙が50枚ほど。一枚一枚の両面には、人物の名前、生年月日、住所等が書かれている。名簿だ。写真がついているものいないもの、詳細が書かれているものいないものがまぜこぜになっていて、みっちり埋まっているページもあれば、スカスカで空欄だらけのページもある。ぺらぺらとめくりながら、侑里はきいた。

「これは、一体なに?神徒のことが書いてある名簿みたいだけれど……」

「ターナ値」の欄と「特筆すべき能力」の欄が一人一人に用意されている。炎を扱う能力、氷を扱う能力……。鏡の中を移動する能力や時間を停止する能力などというものまで存在する。

「『青銅の門』から出現した、青い花びらに関わりを持つ神徒たちのことが書かれた名簿です。ウィリアム=カー氏が、昨日送ってきたものです。『分かるところだけ書いただけだから、役に立つかは分からないけれど、使ってほしい』というメモも添えられていました」

「……こんなにいるの?」

暫くめくっていて、侑里の手が止まった。

「桃ちゃん。これ、私たちに見せる前に目は通した?」

侑里の声も手も震えている。心配そうに侑里の開いているページを覗いた萌子も、息を飲んだ。

「いいえ、まだ見てませんけど……どうしました?」

喘ぐように、一音一音を区切りながら、侑里は答えた。自分の目が信じられないという様子である。

「菊川さんの……ページがあるの」


菊川雅のページには「詳細不明」の文字が多かった。その代わり、一番下の備考の欄に大量に書かれている。要約するとこうだ。


僕も自分で信じられない。彼女は間違いなく君たちの惑星で生まれ、そしてこれまで生きて来た。しかし、彼女は「こちら側の神徒」だ。何かの手違いを疑ったが、厳然たる事実である。これを見た後で、君たちは彼女に勘付かれないでいることは不可能だろう。だから、今までの全てを打ち明けてしまうことをお勧めする。彼女は、きっと何かを隠している。



第十章へ続く。

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