九章七話

「青い花びらを取り除くことができるほどの強大な力の持ち主は、何かしら悩みを持っている……?」

侑里は、桃が言った台詞を繰り返した。

「はい、彼――ウィリアム=カー氏――は、先日会った時に確かにそう言っていました。『僕の場合は、君に本を渡すことで、今の状況の助けをしたくて仕方がなかった』って笑ってましたけど」

なんだろうか、ものすごく。

「変にスベってるニヤケ面が思い浮かぶんだけど、気のせいかな……」



桃の持ってきた資料に暫く目を通していた萌子が、毎月の神徒関連の事件をまとめたレポートの束で、動きを止める。

「秋原さん。このレポートの半分くらいはこれまでの事件だけれど、残り半分の日付が来月以降なのは、一体どういう理由なのかしら?」

再来週の日付の物には、「犯人不明の一家惨殺事件、雪河響の能力により解決。青い花びら関連の神徒の目に留まり、逃走生活が始まる」とある。余計に見過ごすことができない。

「それは、私の日記です。予知とか予言ではなく、単純にというだけですが」

三人が口々に疑問を口にするのを「少し待ってください」と遮ってから、萌子が机の上に置いた、既に読み終わった後のレポートを少しめくる。すぐに一枚抜き取って、萌子に見せる。

「このレポートに、私が実家の蔵で『青銅の鍵』を見つけたという記録があります。でも、ここに書かれた鍵は、形状が同じなのに錆具合が全然違うんですよ。証拠の写真もあります」

写真の束を探り、あっという間にその写真を持ってくる。確かに、桃が現在持っている錆だらけで今にも崩壊してしまいそうな『青銅の鍵』と比べて、別物と言っていいほどに、写真の中の『青銅の鍵』は錆びていなかった。

「私は、ここから先に起こったことをある程度見届けて、記録に残した後に『青銅の鍵』を使って過去に戻ったみたいなんです」

でも、これももうほとんど無駄になっちゃったみたいですね、と桃は言う。

「ここに書いてあることと違うことが起こり過ぎてて、未来が変わっちゃったみたいですから」

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