八章十一話
†
侑里と響の二人で部室に戻って来てから、響はずっと考え込んでいる。何かブツブツ呟きながら考えているのだが、上の空なので訊いても反応がない。仕方なく近づいてみると、
「あんなものにそれだけの意味があるとは考えられない」
といった言葉を繰り返しているだけで、何を考えているのか分からないので侑里は嘆息して携帯電話を見た。
「あれ?萌子から何か来てる」
先ほどの騒動の時に送られてきていたようだ。開いてみると、
『ごめんね、ユリ。長引きそうだから帰っちゃっていいよ。鍵も持ってるから大丈夫』
二年生になったせいで色々増えると思うと言っていたが、ここまでとなると登下校を共に、というのも難しくなってくるかも知れないと思いつつ、再び響の方を見る。萌子に「分かった。でも、家にいるよりはここにいる方が集中できるから部室にいるね」と返事を送ろうとも思ったが、今は授業中のはずだ。休憩のタイミングを狙った方が良いだろうと考えて、今すぐ送るのは止めておいた。
響はやはり、ずっと考え込んでいる。響の体から細い糸状の物が伸びているように見えるので、どうやら『存在の糸』を使って何かをしているらしい。また半透明になってしまわないかと少しだけ不安になるが、響のことだ。言って止めるとは思えない。
(全く、どこを向いても……)
響に聞かせるように一際大きな溜息をついた。どうせ聞こえてはいまい。
その時、侑里の携帯電話が鳴った。桃からメールが来たのだ。
飛びつくように両手で携帯電話を持って、震えながらメールを開く。メールの文面はたった一文だけ。それと、画像ファイルが一つ。
『明後日には登校します』
「人の気も知らないで」と思いながら添付ファイルをダウンロードする。携帯電話のカメラで、暗い部屋の中をフラッシュも焚かずに撮影したものらしく、手ブレもひどい。走りながらシャッターを切ったようだ。分かりにくいが、どうやら単行本のようだ。毛虫が全身を這いまわるような嫌な予感がして、侑里はその写真を凝視する。やはりその被写体は単行本で、タイトルは『青銅の鍵』である。
「桃ちゃん、一体何をやってるの……?」
第九章へ続く。
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