九章一話

†4月二週目、日曜日

文学愛好会、高校生の部員と雪河響の四人は部室に集まっていた。他の部員は、今日はいない。

「桃ちゃん、一体、どんな手段で『青銅の鍵』例の本を手に入れたの?」

「魔法の道具を扱ってるツテを辿りました」

萌子と響は二人の話を黙って聞いている。質問する担当は全て侑里に任せるようだ。

「そのツテって、危なくないの?私にメール送ってくれた時、なんだかすごく慌ただしい様子だったけど……」

高校生の入学式は水曜日だった。そういう事情もあって、侑里は水曜日、萌子が部室に来るのを待ってから相談して、「詳しい話を訊きたい」と桃にメールした。ところが、返事は「『青銅の鍵』例の本を探していた四人で集まってから話したいです」の一点張り。そこで、三人で相談して、ある程度話す内容も決めた上で、この場を設けたというわけである。

「大丈夫です、いつものことですから」

桃はそう言って微笑むが、侑里の返事は既に決まっていた。

「そうは言うけど、私が本を探させたようなものなんだから、責任を感じちゃうのよ」

「心配しないでくださいよ、楠木先輩。私は子供の時からずっと、こうやって過ごしてきたんです。秋原家は、神徒の能力を人の役に立てるために使うのが家訓ですから」

そんなことより、と強引に話を切って、桃が侑里にきく。

「楠木先輩たちも本、見つけたんですよね?しかも、怪奇現象までセットで」

萌子が部室に来てから、三人で少し相談したのち、遅い時間だったので解散した。それから、響は夜通し本に挟まれていたメモと花びらを探し回り、翌朝、侑里が登校してきた後に、倒れた際に起きたことを語った。桃には本を見つけたことだけ話して、響の身に起きたことは打ち明けてないはずだが、桃は色々な情報をどこからともなく集めてくる。今回も同様だろう。

「大したことじゃないはずよ。部室のある校舎は鍵の管理も緩いし」

高校生以上の部員は全員、文学愛好会の部室の鍵を持っている。その代わり、警備員が来ることはほとんどなく、夜間のオートロックの対象にもなっていないのだった。

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