七章四話
携帯電話を使いながら説明する萌子の話を聞いて、侑里が疑問を口にする。
「確かにおかしいとは思うけれど、私も忘れちゃいそうになってるよ?」
「ほんとに?」
「うん、ほんとほんと」
合宿の時よりも、件の本の方が広範囲に怪奇現象を及ぼしているのは間違いない。萌子が複雑な気持ちになるのも頷ける。
そうこう言う間に、目的地の駅に着いてしまった。改札の前に桃が来ており、侑里と萌子に手を振る。
三人とも、目的地のレストランに来るのは初めてだった。白っぽい木目調の壁に、落ち着いた色合いのテーブルと椅子。手頃な価格のメニュー。
「結構混んでるみたいな話だったから、ラッキーなのかも?」
春休み期間ということもあるが、店内は空いていた。侑里たちの他に、ほとんど客はいない。雑誌などでもよく扱われるため、平日も混むと知っていた。直ぐにテーブルに座れて、そのままほとんど待つことなく料理も運ばれてきた。間違いなく幸運だろう。しかし、桃の表情は暗い。今度は桃ちゃんか、とほんの少しだけ思いながら、タイミングを伺う。
しばらくして、桃が口を開く。
「例の本についてです。私の推測が混じっているんですが、状況は非常に悪いと思います」
桃はあまり食べていない。それどころではない様子だ。
「そりゃ確かに本を探そうと思ってもみんな忘れちゃうから困るけど、それってそこまでマズい状況なの?」
「ピンチもピンチ、大ピンチに近いかもしれません。誰かしらが悪意を持って魔力を使っているのは間違いありませんが、その相手が本ではなく、私たちの誰かである可能性が出てきてしまいました」
偶然であればいいのですが、と言いながら、桃は自分の携帯電話を見せる。SNSの投稿を検索するページが表示されていた。
「昨日のお昼も、一昨日のお昼も、ここの料理の写真やここでお昼を食べた、という投稿は必ず何件もあります。11時から13時の間なら20分に一件は見つかるほどです。それが、この時間になっても一件もないんです」
今の時刻は12時ちょうど。
「たまたまじゃない?」
「……論より証拠ですね。ちょっと待ってください」
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