六章六話

侑里は戸惑っていた。こういうもの偽物の友人を見破る相場はその人しか知らないはずのことを問いかけることである。侑里も、そうやって見破ろうとした。それにも関わらず、一向に尻尾を出さないのである。それどころか、段々侑里も魔力で作られたはずのこの萌子を本物だと思い始めていた。自棄になりながら、侑里は一つ萌子に提案をした。

「萌子、携帯電話持ってない?私、荷物の中に置いてきちゃったみたいで持ってなくて……」

上手く嘘をつけた自信はなかった。萌子が本物の萌子ならすぐに気がついたことだろう。しかし、萌子は頷いて、携帯電話を差し出した。

「いいよ」

「ありがとう」

携帯電話を受け取って、待ち受け画面を開いた侑里は言葉を失った。


待ち受け画面も、アプリのアイコンも、全てが侑里の様々な顔である。明らかに盗撮や合成も混じっている。友人の趣味にどんな言葉をかければいいのか思いつかなかった。確かに、侑里も頭のどこかで感づいてはいた。だが、萌子は間違ってもこんなことをするタイプではない。それに、以前見た時は携帯電話の待ち受け画面はごく普通のものであった。もっと言えば、萌子の感情はこういう種類のものではない。いくらなんでも萌子という人間を舐めている。

間違いない。この萌子は偽物だ。侑里をゆさぶろうとしている。自分を騙し、陥れ、萌子を貶めるを許して帰すわけにはいかない。自爆させる呪文は、すぐに思いついた。こんなところでこんなものと話している時間などもう取りたくないのだ。

「萌子。桃ちゃんはどこ?」

露骨に不機嫌そうな顔になって、萌子は答えた。

「あんな奴、知らない」

溜息をついて、侑里は告げる。本当は、もっと早く気付くべきだった。親友としての沽券にかかわる。

「萌子。あなた自分で思ってるよりもずっとなの。桃ちゃんと二人きりの時なら良くない感情をぶつけるかもしれないけど、私の前でそういうことはしない。『あんな奴』なんて、その人をないがしろにするようなことは絶対に言わないの。萌子はそういう子よ」

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