四章十一話

†同時刻

侑里の眼前数センチのところを、ひとひらの花びらが舞い落ちていった。全体が深い青色の花びらである。かなり大きな花びらで、侑里の掌ほどの大きさがある。侑里が手を伸ばすと、丁度侑里の手におさまった。水滴のような形をしていて、円弧の部分がほんの少しだけ割れている。萌子がじっとその花びらを見つめていた。

「『孤独の樹』に見えた花びらってまさか……」

侑里の目の端を横切る青いものが見え、そちらに目を向けた侑里は、言葉を失った。

「なに、これ……?」

街中を青い花びらが舞っていた。みるみる内に花びらは増え、視界が塞がるほどの量となって、花びらは舞う。異常なターナ値を検出したのか、研究所の警報が鳴り響いているのが聞こえた。萌子の携帯電話が着信音を鳴らし、侑里の携帯電話にもメールが来る。萌子は電話に出て、侑里はメールを確認する。メールは二通連続で来ており、一つは隆康からで、もう一つは母親からだった。世界中でこの青い花びらは舞っていて、どこか屋内に避難するようにと指示するメールと、侑里の安否を心配するメールであった。萌子の電話の相手も侑里と同様に家族だろう。

「……うん、分かった。また何かあったら電話するね」

電話を切った萌子と、携帯電話をしまった侑里が互いを見て、目で「研究所に戻ろう」とアイコンタクトを交わす。


その後、青い花びらは二時間ほど降り続け、そのまま跡形もなく消えてしまった。異常なターナ値による警報は解除され、それぞれは帰路についた。観測されたターナ値は平均すると50半ば。浴び続けると健康被害の出る可能性のある数値であるため、各医療機関で検査が実施された。この『青い花びら事件』は、後々まで語り継がれるほどの歴史的な大災害として記録されて、後世ではこの事件以降、間違いなく人々の考え方は変わってしまったと語られる。

当時の観測衛星の記録によると、世界中の都市だけでなく、海も、山も、一部は大気圏外にまで、青い花びらは舞ったことが分かる。ただ一つ、『青銅の門』の周囲を除いて。



五章へ続く。

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