四章三話

「口頭で説明するよりもレポートを見せた方が早い」と言って、雨岡は咲岡を伴って大学構内の自分の研究室に戻った。

「目についたレポートくらいしか置いてない倉庫だが、研究所に行くよりもまずはここに置いてあるレポートを読んでもらうべきだろう」

独り言のように言いながら、三つのレポートを咲岡に手渡した。

「そのどれもが君と同じ青銅色の扉を目撃したというレポートだ。一番上のレポートを見てくれ。君と同じような扉から出て来た人間についての記述がある」

読んでみると、確かに真也と同じように青銅色の扉を見たという記述があるが……。

「この大学の構内?しかも、サークル活動で泥酔した学生が発見したって、こんなもの信じられるんですか?」

信じられない様子で言う咲岡に、雨岡が言う。

「そいつは丁度都合の良いことにターナ値計測器を携帯しててな。自動計測の結果が出ているだろう?」

「……周辺のターナ値35。扉から謎の老人が出現後、特に何もせず煙のように扉ごと消失」

一応最後までレポートを読むが、咲岡の出した結論は最初と変わらない。

「計測器の故障か学生の能力が暴走しただけですよ、これ。写真も添付されていますけど、これはどう見ても加工でしょう」

こんな胡散臭いものが表に出るはずがない。笑われてお終いだ。嘘ならもう少し上手いものを吐けとその目撃者の学生を笑う。

「うーむ確かにあまり良いデータではないかもしれないな。二番目はどうだ?」

そう言われて二枚目のレポートに咲岡は目を通す。

「深夜一時、一人で街角を歩いていた男性が暗い青銅色の扉を目撃。周辺に街灯なし、ターナ値計測器がなかったためターナ値不明、男性の他に目撃者なし。扉が開いたものの、中から出現した生物も物品もなし。……教授、あなたこんなものを信じるんですか?」

こんなものより、ゴシップ誌の方がまだ幾分信憑性がある。三枚目のレポートも、やはり先の二枚と同様で妄言の域を出ない。

「もうこの際青銅色の扉については置いておきましょう。ターナ値50以上の記録のあるデータはないんですか、教授」

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