四章二話
「やぁ、真也君。久しぶりだね」
待ち合わせ場所の喫茶店で、雨岡は既にアイスコーヒーを飲んでいた。
「お久しぶりです、雨岡教授。息子さんはお元気ですか?」
学生時代によく見た笑みと全く変わらない笑みを浮かべて、雨岡は答える。
「ああ、あいつも元気にやってるよ。君の方がそれについては詳しいんじゃないか?」
雨岡も神徒だ。彼の老化は凄まじくゆっくりと進む。だから、傷を負った場合の治りはとてつもなく遅い。それは彼の息子も遺伝子を引き継いでおり、半世紀かけてようやく神徒ではない人間の数年分成長した。その体を活かして、彼の息子は調査団の上層部で生き字引をしている。咲岡の入団の際に口利きをしたのも彼だ。
「彼に会えるほど俺は優秀な立場じゃありませんから……」
「君には向上心というモノが欠けているんじゃないのかね」
学生時代に雨岡からよく言われた台詞だった。二人でひとしきり笑った後、咲岡は雨岡の向かいに座ってコーヒーを頼んだ。
「さて、それでは本題に移ろうか。ミュズィース失踪の件だ」
「俺が知っていることは調査団上層部に全て報告しましたよ。それ以上のことは何も知りません」
「嘘だな」
雨岡はピシャリと言った。
「君のことだ。シフトから外れていようがなかろうが絶対にミュズィースから目を離すことはない。寝ずに二週間は行動し続けられる体力と気力を持て余していると言われて君の血液検査をしたのが僕だ。君のその体力と気力は決して枯れないことを僕はよく知っている。監視任務に君以上の適任などいるものか」
だから、何があったのか僕だけには正直に白状してはくれまいか、と雨岡は更に続けた。
「教授に嘘はつけませんね」
「当然だ。嘘つきの年季が違う」
雨岡のその言葉を呆れたように笑ってから、咲岡は言った。
「突然船内に小さな青銅色の扉が出現して、そこから女性が出てきました」
「ほう」
それからあの時起こったことを順番にひとつずつ、雨岡に説明した。雨岡はその説明を頷きながら聞き続け、説明が終わった後大きく息を吐いてから、咲岡に告げた。
「君の言った青銅色の扉だが、これは大学のデータにいくつか出現情報がある。表には出ていないデータだがね」
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