三章三話
侑里が歩きながら、自分の知っている神徒について話している途中で、萌子が口を挟んだ。
「黒い獣って、どんなのなの?」
それを聞いた侑里は目をパチクリさせて、ひとしきり手足をじたばたさせてジェスチャーで示そうと試行錯誤した後、
「どんなのってそりゃあ犬っぽい何かで……そうそうあんな感じの!あれ完璧にそう!」
正面に見える二匹の犬を指さした。普通の犬とは違い靄を引いて、足をぼやけさせながら走り回るその様子は、間違いなく神徒の使う黒い獣だ。
「うん、あれは間違いなく本物だと思う」
「ねぇ、ユリ。神徒って本当は研究所の外で無暗に能力使ったらダメだって言ってなかったっけ?」
気まずそうに萌子が言ったが、侑里は首を横に振った。
「不味いは不味いけど、どうせみんな黙って使ってるし、バレなきゃ良い話だもん。使った方がストレス発散になるのは事実だし」
なんて言うか神徒にとって能力を使わないのは縮こまって生活するようなもんだし……と続けると、二匹の黒い獣が侑里と萌子の方に向かってきた。二人の前で止まると、ばたばたを尻尾を振る。
「犬、だね」
「でしょ?」
二人が犬を眺めていると、前から少女が走ってきた。
「ごめんなさい!私の使い魔が迷惑かけたりしませんでしたか?」
「この黒い獣は、あなたの?」
萌子が訊くと、力強く少女は頷いた。
「はいっ!……あの、選抜クラスの茂手木萌子先輩ですか?」
「その通りだけれど、あなたは?」
「申し遅れました!私、選抜クラス中等部三年の秋原桃と言います!中等部二年の柏原と柚木の近所に住んでいます。先輩に憧れて勉強頑張ったので、四月から文学愛好会に入るつもりです。よろしくお願いします」
大きくお辞儀をする桃。柏原と柚木の二人は文学愛好会に所属している。その繋がりもあって萌子のことを知ったのだろう。
「へぇ、すごいじゃんモテギセンパイ。ファンの後輩がいるなんてすっごい有名人じゃないの?」
侑里が茶化すと、萌子は照れ笑いを浮かべた。
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