二章十話

二人が合宿の資料に一つずつ目を通していたところ、木造棟に大きな足音を響かせながら誰かが部室に駆け込んで来た。

「遅くなりました!……うげぇっ、なんだこの本の山!?」

その声の主は部室を見渡した後に、更に声を上げた。

「なんか今日の部員少なくないっすか?」

侑里が資料から目を離すことなく答える。

「おっす、スバル。卒業式の練習は今終わったとこ?」

侑里とさほど背の変わらない少年、蓮野昴は侑里の方を見て言う。

「おっす、楠木センパイ。そうっす。練習終わって走ってきました。で、俺、無事ここの高校に行けるようになりました。問題なく合宿行けます!――菊川さん本当にありがとうございました!!」

後半の台詞は菊川を見て言い、力強く頭を下げた。

「今の内にしっかり復習しておきなさいよ、昴。入学式までにたんまり宿題出るから。この本の山は合宿の資料よ。それと、斎藤はもうちょっとしたら来るわ。ついでに言うと榊は今日休みね」

昴の疑問に答えながら、菊川は資料の整理を始めた。

「蓮野君。二年生の二人は見なかった?」

「ああ、あの二人なら大学の図書館に行ってくるって言ってましたよ、茂手木センパイ」

でも、この本の山が合宿に必要だって聞くとちょっとやる気なくしますね、という蓮野の呟きを聞いた萌子がフォローする。

「これ、斎藤先輩と榊先輩が主に選んだ本だから蓮野君でも読みやすいんじゃない?」

「茂手木センパイ、それ聞くと余計に読む気失くすっス……。菊川先輩が選んだヤツなら読みたいんですけど」

それを聞いて侑里と菊川が笑った。

「安心して、スバル。この本の山を半分くらいにしてから中学生三人にバトンタッチするから」

「そう言うだろうと思って私が現在まとめ中よ、昴。安心して待ってなさい」

その間もずっと侑里は資料の山にあった一冊の長編小説を読んでいた。世界樹の伝説を題材にしたフィクションだ。先月末に侑里が読んだエッセイはその世界樹の伝説と『青銅の門』を絡めている部分があった。やはり雪河の姿が頭をよぎる。

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